イーロン・マスクの評伝に続き、先週世界一の資産家になったジェフ・ベゾスの評伝を読んだ。ご存知Amazonの創業者。こちらの本もジェフ・ベゾス本人に何度も取材を行って丁寧に書かれた一冊であり半自伝と呼ばれている。2013年に発売されたので5年も前になるが当初は相当評判だったらしい。
ジェフ・ベゾス 果てなき野望?アマゾンを創った無敵の奇才経営者
- 作者: ブラッド・ストーン
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2014/01/09
- メディア: Kindle版
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個人的に英語タイトルであるEverything Storeは残して欲しかったな。
さて中身だけど、イーロン・マスクの評伝以上に絶望する。まずジェフ・ベゾスが規格外に頭がいいのだけれど、さらに冷酷だからだ。まあとにかく容赦がない癇癪持ちで、社員に還元するという精神はまったくない。優秀な人々しか使わないが、そんな優秀な人達にも決して良い待遇を与えない。例えばこれだけ大企業になってもAmazon本社のガレージは有料だ。
象徴的なエピソードがある。
編集部門は創業初期に置かれた部署で、そのライターと編集者がいたから人間味が感じられるトップページや商品ページができたと言える。もともと、独立系書店が持つ文学的な雰囲気を醸しだし、顧客自身にはみつけにくい本を推薦するために置かれた部署なのだ。 パーソナライゼーション部門は最初のpと最後のnとのあいだにアルファベットが13個並んでいることからP13Nと呼ばれている。このP13Nが、編集グループの領域を少しずつ侵食していった。購入履歴をアルゴリズムで分析し、顧客が興味を持ちそうな商品を提示するのがP13Nの仕事で、それが次第に改善されていったわけだ。2001年には、購入した商品の履歴に加え、チェックした商品も分析して推奨商品を提示するようになる。 ふたつの部署はアプローチがまったく違う。編集部門はプロモーションすべき商品を直感的に選び、巧みな言葉で売り込む。たとえば1999年のトップページには、ライオンを模した子ども用バックパックと「人間はライオンほど勇壮になれません。このゴリアテバックパックパルさえあれば、はじめて学校に通う不安なんてもうへっちゃらです」と書かれていた。これに対してパーソナライゼーションはキャッチフレーズなど気にせず、客観的データを使い、統計的に顧客が買う可能性が高い商品を準備するという形をとる。 ベゾスはどちらかを引き立てたりせず、成果だけに注目した。時間の経過とともに、人間の敗色が決定的となっていく。P13Nの部屋には、「ジョン・ヘンリーは最後に死んだのに、みんなそれを忘れている」と掲げられていた。ジョン・ヘンリーというのは、蒸気機関で動く掘削機と穴掘り競争をして勝つが、その直後に死んでしまった伝説の職人だ。 編集者やライターの大半は別部署に移るか会社を辞めることになる。
これは商品プロモーションを昔ながらのやり方でやる部署と、アルゴリズムで行う部署を競争させたときの話だ。結果はエンジニアの開発したアルゴリズムの方が売上が良かったためライターや編集者の部署は解体された。
まさしく現代の機械やAIの脅威がわかるシーンだ。ベソズはこういったことに無感情で対応する。ベゾスはプリンストン大学の工学士で金融機関のエンジニアだった。典型的なオタクで読書家というパーソナリティを持っている。
そんなベゾスの典型的な考え方を引用しよう。
コミュニケーションは機能不全の印なんだ。緊密で有機的につながる仕事ができていないから、関係者のコミュニケーションが必要になる。部署間のコミュニケーションを増やす方法ではなく、減らす方法を探すべきだ」
コミュ力重視の人々とは真逆の考えを持っている。彼はデータを重視する人物なのだ。
ベゾスはボロぞうきんになるほど部下をこき使うし、社畜なら得られるはずの特典はほとんど与えない。また、キーパーソンが退社しても顔色ひとつ変えないことが多い。
このようにとにかく部下に対して冷酷だという文が何度も出てくる。
「倹約─顧客にとって意味のないお金は使わないようにする。倹約からは、臨機応変、自立、工夫が生まれる」
これはAmazon14箇条の1つらしい。ケチこそが美徳ということか。
とまあこのようにおおよそ景気の良くない話が度々でてくるのであんまり読んでて楽しくないのだ。成功者であることは間違いないけれど決して憧れない。イーロン・マスクはまだ超人的な理想論がありおもしろいが、ベゾスはひたすら金の亡者なのだ。
Amazonは僕もたくさん利用するが、夢のある企業というよりは便利な企業というように感じている。Kindleも持っているしAlexaも招待待ちだけれれど、なんというか憧れとは違っている。ベゾスは小売り業ではなくテクノロジー企業なんだと言い張ってきて、近年ではそのような認識になっているとは思う。ベゾスを見ていると、ユニクロの柳井社長とかぶる。すごいんだけどあんまり好きになれないみたいな。孫正義の方がまあイカしたところがあるみたいな。
Amazonがいかにして巨大になったかが語られており、家族に関する情報はわずかだ。彼は10代の両親から生まれて父親は離婚してから40年以上も関わらないようにしていてお互いに生きているかどうかさえ知らなかった。育てたのは母親の再婚相手のキューバ難民の青年だ。彼からアメリカン・ドリームの精神を受け継いだらしい。
そのエピソードは冷酷なAmazonヒストリーを描く本書にあって、唯一といっていいほっこりするヒューマンストーリーだ。
それ以外はライバル企業をいかにして叩きのめしたか、どのように従業員をこき使ったかが描かれていて憂鬱になる。
人類で最も資産を築けるのがこのような人間だというなら寂しいもんだけど、Amazonはもはや誰にも止められない企業ということがわかる。
読んでみても損はないと思う。