フロイドの狂気日記

時は流れ、曲も終わった。もっと何か言えたのに。

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映画「バイス」ブッシュ政権副大統領チェイニーを描く

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僕は実在の人物が中心の映画が好きだ。古くはシンドラーのリストガンジーラストエンペラーチェ・ゲバラを描いた作品や、リーマンショックがテーマのマネー・ショートなどなど。こういう映画には期待してしまう。朝1で見に行ったのだが、ぼちぼちの客入りであった。

 

映画は若きディック・チェイニーが車の運転中に警官に呼び止められるシーンから始まる。若きチェイニーは成績も悪くイェール大学を中退し、工事現場で働くなどして過ごしていた。彼の何が惹きつけたかはわからないが、リンというイェール大学の秀才が恋人だった。彼女は叱咤激励しながら夫を支える献身的な女性として描かれている。実際に若い日から一切離婚せずに今も夫婦関係が続いている。

 

ホワイトハウスで働くスタッフとして一括採用されるシーンが始まり、ブッシュ政権下で閣僚となるドナルド・ラムズフェルドの部下として働き始める。そこから政界で出世街道に乗っていくというのがメインストーリーだ。映画の最初に断りを入れているように、チェイニーは謎の多い人物らしく、どうやっても彼がここまでドンドン出世していったのかがわからない。口が堅い、余計なことを言わず仕事をする忠実さによってラムズフェルドの下で頭角を現したということらしい。

 

娘が2人出来てニクソンが辞任した後フォード政権下で最年少首席補佐官の立場を得るが、選挙でカーターに敗れてラムズフェルドブリュッセルに飛ばされ、チェイニーは彼の部下を辞め銀行のCEOに就任して大金を稼ぎ始める。このあたりは順風満帆という具合でその後、下院選に出馬、凄まじい演説下手だが当選、議員を続けブッシュ父政権で国防長官の職についたことでブッシュ親子と関係をもつ、という具合に話が続いていく。

 

この物語の最初から解説役として登場するあるアメリカの田舎の白人がいる。これが物語のキーマンというかアメリカ史を解説する補助役として機能している上に、最後にはあっと驚くチェイニーとの関係が明かされる。その明かされる瞬間がドキッとするので、驚きたい人は見るといいです。

 

2019年にまだチェイニーは生きているが、映画の形態でこき下ろしている。とにかくブッシュの権限を実質的にものにして、イラクにミサイルを打ち込んだり、悪名高いアブグレイブ刑務所などでの拷問を正当化するような状態にしてしまう。昔はボスだったラムズフェルドよりも強力な権力を手に入れ、軍事介入していく姿が描かれる。ブッシュ政権入より以前にCEOに就任した石油企業の株はイラク戦争後に500倍の価値になるという字幕も出てくる。この映画は徹頭徹尾チェイニーの悪行を暴く形をとっていて、彼のせいで死んだ人々は数知れないことがわかる。

 

解説役の白人男性がちょこちょこ出てくる瞬間もおもしろい。911の際に黄色いベストを着ている人たちの写真の一部にいたり、イラクで戦争している兵士として解説したり、このキャラのおかげで映画の魅力が増している。それだけに映画の最終部に出てくるときの彼は悲しい。

 

チェイニーのいいところは家族を最後まで優先していたところだろうか。娘がゲイと知ったあと、大統領を狙える立場になっても娘が攻撃されることを恐れて正解から一時的に引退している。その当時は今ほどLGBTに寛容ではなかったからだろう。奥さんとは一度も離婚していないし、最後の最後までお互いを信頼しあっている。ただし、アメリカの権力を法律の穴をついて私物化していたのはアメリカの黒歴史だろうと思われる。

 

この映画ではイラク戦争にいたるまで歴史を知ることができるし、テロに翻弄されるアメリカの00年代の歴史を学べる作品となっている。

 

7.5 / 10点