フロイドの狂気日記

時は流れ、曲も終わった。もっと何か言えたのに。

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映画「天気の子」大衆の期待を裏切るストーリーと期待通りの映像美

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ミーハーな僕は公開日の夜にレイトショーでみた。仕事帰りで遅い時間ではあったが客入りは良かった。殆どの席は埋まっていたように思う。

 

内容を一言でまとめると「可もなく不可もなく」

 

映像美に関しては前回よりも遥かに良いと言えるのではないか。これは予算の増加によるパワープレーみたいなもんで、個人的には評価点は高くない。というのも今年はじめに「スパイダーバース」を見に行っていて、もちろん桁違いの予算ではあるんだろうけど、映画館でやれることをフルに詰め込んでいて、3Dで見ないと損だなと思わせるほどであった。天気の子は美麗ではあるが3Dで見るほどではないだろうし、4Kと8Kの差みたいなところではあるような気がする。すごくキレイだけど4Kでも十分だろ、みたいな。

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さらに言えば「君の名は」で獲得したファンや、僕のようなストーリー重視の視聴者が期待したのは、エンタメで泣けるみたいな作品なんだろうと思う。「あの感動的な作品を作った新海誠」を見に来たファンはガッカリしたのではないか。僕も期待しすぎたのはあるが「君の名は」的なドンピシャのエンタメは3年間で量産できるものではないのだろうと少し残念に思った。

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以下全ネタバレ

 

ストーリー重視派、一見さん達は粗探しが好きなわけではない。だが粗が多すぎるとモヤっとして没入感が消えていくのだ。例えば映画序盤で思わしげな感じで主人公の帆高が東京にやってくる。だがその理由は映画の最後まで特に重要な理由もなく、フワっとしたままであった。伏線でもなく、家族との問題でも、出身地になにかあるわけでもない。ただ息苦しいというだけである。

 

大都会東京をワクワクするように魅せる技術はさすがだけれど、ヴァーニラヴァニラ高収入で有名なトラックをそのまんま出すのはどうかと思った。反社の収入源だろあれ。

 

それでも序盤の何か起こりそうな感じは、ボルテージを上げるには十分だと思った。東京の中でポツンとある古びてボロボロのビルの最上階で祈る陽菜は、この物語を感動のラストへ持っていくと期待させてしまう。

 

中盤から怪しげなところがポツリポツリと出てくる。例えば、母親が死んで中学生と小学生の2人暮らしをしているところは、東京ではなかなかありえないんじゃないか、と思ってしまう。陽菜は最初、高校生と名乗っているからスルーできたが、終盤で中学生であることが明かされるので、ありえねーと嘆息してしまう。高校生ならまだしも、義務教育内では自治体にそれなりの対応がなされるだろうし、無理に国家の庇護を拒否する理由もないし、マクドナルドのバイトでは2人で暮らすのは無理がある。親の遺産や生活保護があるなら逆にバイトのリスクを負う必要もないのではないか、というように。冒頭の主人公が東京に来た理由の薄さも相まって、親を排除したいだけの舞台装置感が否めない。

 

雑誌ムーのライターとして活動する男が庇護者の代わりのようになるが、その嫁とその実家に何か深い関係がありそうに思わせて驚くほどのものはないというのも気になる。天気を操ることができるよう能力を使って晴れ女としてネット経由で金を稼ぐようになるが、ネット上の怪しげな商売に5000円も出すフリーマーケットの店員や、うまく天気を変えて数万円の報酬を渡すところも、うーん?と思ってしまった。

 

トントン拍子で金を稼げるようになるが、序盤で陽菜を助けるために銃を撃ったことで警察に追われるようになる。これは金のなさ故に売春かキャバクラ勤務かわからないがキャッチのおじさんと怪しいお店に入ろうとしたところを主人公が助けようとして、揉み合った結果、最序盤で拾った銃を撃つというものだ。監視カメラの映像から割り出されて、親が行方不明者届けを出していることも相まって警察との追いかけっ子になるのだが、あまりにも警察が無能すぎてさすがにねぇわと思ってしまった。

 

ここまで書いて、いやあご都合主義でアンナチュラルな筋書きだな、と感じられる。監督の好きな東京を書くにしても現実の組織と乖離しすぎているが、東京の街自体は完全なリアルなので、より一層その不自然さが目立つのだ。

 

警察に追い詰められるが、スタントばりのバイク操作で乗り切る(運転手はネットで煽られまくった本田翼が演じるキャラ、いうほど下手くそではない)途中で主人公が線路の上を走って行くシーンなどもあるが、あまりの周りの無関心さに呆れてしまう。確保するだろふつー。

 

警察から隠れるために未成年でラブホテルに入ろうとして断られまくるシーンも「ラブホって無人ぽくなってねえかな」と思ったりした。受付がいるところもあるが、部屋ボタンだけ押してサッと入ったことしかなかったような。古びたホテルで一度受付から鍵を渡されたこともあったようななかったような、である。まあ未成年ぽく見えたら怖い人がでてきたりするのかな?まあ結局未成年だけでラブホに入るわけだが、そこはいい。

 

そんな感じで絵の細かさは素晴らしいのに、ストーリーの整合性は大雑把すぎるというか、大雑把でも終盤に大きなカタルシスがあればよいのだが、それがなかった。警察に捕まってなんやかんやで唐突に3年後、となるのも悪い意味で驚いた、というか笑った。

 

音楽についてもRADWIMPSが前回に引き続き採用されたけれど、サクッと覚えれそうなメロディではなく、前前前世のようなキャッチーさがなかった。マンネリ回避のためか女性ボーカルを取り入れているのは悪くない気もする。

 

なんだかチグハグだなあと。「君の名は」での再会シーンほど、今回の主人公たちの再会シーンは感動しなかった。必然性も偶然性もないという感じ。

 

監督は期待されてキャッチーさを考え尽くしたが、「君の名は」自体がクリティカルに良かったが、ああいうカタルシスのある作品自体が狙って作れるようなものではないのだろう。それができれば映画業界は苦労しないわけで。だからすごい重圧の中で、自分のやりたいことと、客が求めているものを苦難の末に作ったというような足跡は感じられるのだけど、どちらも失敗している。客はもっと劇的なストーリーを求めていたし、かといって監督の最も好きなことをやっているというふうにも見えない。そんな映画だった。エンタメ映画制作の難しさを端的に表している作品だと思う。

 

 

6点 / 10点