ボリス・ジョンソンが英国議会を停止した。そのニュースはまた一歩No Deal Brexitに近づいたと評価されている。
僕はBrexitに関して言えば、離脱派だしNo Dealなら最高だ。というのもポンド安になることが確実で、僕がマンチェスターに行くときにより多くのポンドに交換できるのでありがたい。が、当の英国人たちにとっては日に日に阿鼻叫喚になっていっている。
冒頭で挙げた記事はコメントが付けられるが、すでに3万件を超える人達が意見をしている。はっきりいってどこかで見た地獄絵図である。英国人専用のはてブ的な場所を知らないが、近いものがあるとしたらこのThe Guardian web版のコメント欄だろう。The Guardianは左派的な高級紙で日本でいうと朝日新聞なんだろうが、とにかくアンチBrexitである。読んでいる人もそういう人たちが多いのだろう。はてブでよく見る人権問題並に吹き上がっている。とにかく絶望感がすごい。英語の勉強にもなる。coupという単語が頻出するのだがクーデーターという意味で、英国紳士は議会停止をそう見ているらしい。
Have we taken back control yet ?
まだコントロールを取り戻せるか?
というコメントには大量の意見がついていて、親EU派が苦悩の声を上げている。
「いつ誰がそんなことできるというんだ?」
「それはBrexit派のやるべきことだ」
「革命はいつだって中産階級から始まる」
「イギリス人は政治的抗議運動にものすごく受け身だ」
とまあ、Brexit派への恨み節、政治家への恨み節、民主主義への不安ともう大混乱の体だ。政権交代前自民党の末期や民主党の崩壊時、311だとかまあ色々なところで日本でも見た風景ではある。他国のこの状況はなかなか見ものだ。まずNo Dealでポンドが100円ぐらいまで落ちれば僕のイギリス暮らしは素晴らしくお得なものになる。それだけでなくともメシウマだ。人の不幸は蜜の味。まるで民主主義や先進国の手本のように振る舞ってきた連中も一皮むけばこうなる。動物のような政治対立。トランプ体制とでも言うべき国家内対立の世紀だ。白人国家といえども、ついには他国に尊大に振る舞えるような立場ではなくなった。
様々な理由が複雑に絡み合って、その結果今英国民は懲罰を受けている。中産階級以下をケアしなかったエリート主義や、強欲な資本家を野放しにして国民を貧困化させたことや、教育を受けられない人々をフォローしなかったことや、党利党略を優先したBrexit後の混乱した議会だとか、差別を抑え込んでいただけの上っ面の顔をまるで本当の姿であるかのように見せた偽善主義、大量の移民によって底辺層の過当競争に追いやった労働環境など、ひとつひとつをおざなりにしてきた罪の罰がくだされていると言えるのではないか。
紐なしバンジーを強制させられるかのような事態はまさしく最高のショーではある。ポンドの価値が下がるのをみながら、阿鼻叫喚の掲示板を見ると複雑な心境に楽しくなる。かつての大帝国の郷愁を持ちながら、100年単位で見れば小さくなり続けている現実がある。恐らく現場の特に高齢者たちはそう思いたくないかもしれないが、客観的に見ると英国は小さくなり続けている。諦めと希望の間で揺れた結果、もっとも思わしくない方向にさえ動く姿は、シェイクスピアの喜劇のようじゃないか。
実のところこの姿は将来の日本の姿でもある。どのようなきっかけや問題かはわからないが、もっと年を取った後の日本人は年金と医療費の削減で苦しむ羽目になる。誰も彼も民主主義政治と国民国家の調整を怠った懲罰を受けるのだ。
いやしかし国家レベルで懲罰を受けている姿を見ることは、なかなかどうして愉悦である。一人二人が不幸になる姿を見ても可哀想になるだけだが、国家レベルだともはや喜劇チックで楽しい。アメリカがトランプを選びレイシストを全開にさせて、もはや人権の指導的立場を自称できなくなり、ベネズエラが愚かなポピュリズムの果てに崩壊し、イギリスはBrexitのグダグダで国家を再起不能なほど分裂させている。
懲罰を受けろ。無関心で平和ボケした愚か者どもめ。今平和に生きていられるのは政治と国民の絶え間ない調整とケアのおかげだ。都市部に住んで政治的無関心になったポンコツどもや、田舎で尊大に振る舞い続けた老齢者どもめ。大なり小なり他国も同じだろうということがわかった。
Brexitの混乱は今年いっぱいは楽しめる。温かい紅茶とスコーンを用意しよう。ウィスキーもあるといいね。懲罰を受ける大衆のショータイムはまだしばらく続くのだから。