フロイドの狂気日記

時は流れ、曲も終わった。もっと何か言えたのに。

PR

プログラマへのレクイエムを奏でる経営者

PR

九州旅行も終わり、娑婆の世界でゴミみたいに働くために仕事の打ち合わせをした。仕事を引き受けるかどうかの案件確認の場である。もはや僕のキャリア的に一方的に仕事内容を確認する側といっていい。大抵の場合はクライアント側から拒否されることはない。それはこの業界の人材が払底していることを意味する。業界の人材不足は聞いていたが、その根本原因が何かを業界側が理解していないという根拠のようなものを今日知った。

 

昼過ぎからその地獄の会議は始まった。まずは案件の説明からというコピペのような始まり。この際プログラム言語だとか使うフレームワークなんてものはどうでもいい。PMらしき人の説明が特攻隊結成のそれであることが主な筋書きであった。

 

「エンドユーザーが○○(例えるならホームページ・ビルダー的な古くどうしようもないアプリ)を使って構築していた古いシステムのリプレイス案件になるのですが、○○だけでは足りない部分を独自に手を入れて作っているので、そういう部分も含めて再構築することになります。」

 

そんなことをいう請負会社の社員を見ながら、○○というアプリは僕がキャリアの初め頃からあって今では死んでいてもおかしくないものなのだが、それをさらに独自改修しているという点が地獄の門を見るかのような恐怖を覚えた。リプレイスだからそれらのソースを読まなければならないのだ。

 

「今回は詳細設計の作成からをしていただきたくて、コーディングはオフショアにほとんど任せる予定です。もちろんオフショアの部隊が作ったソースのレビューなどはこちらでやるつもりですが。」

 

血の池地獄かな?オフショアのコントロールがどれほど難しいか解かっていての判断なのだろうか。海外にいるプログラマをサボらせずにクオリティを高めるのははっきり言って超長丁場を覚悟する必要がある。コントロールをミスると不具合まみれにも関わらず、相手に怒り飛ばすだけのこともできないミスしたもん勝ちの糞展開だけが待っている。

 

「ところで某国内IT企業(業界的には有名だが好かれていない)が作ったクラウドサービスとAPI連携するのですが、それは新サービスで今回我々が作ることになるアプリが初の利用者になるのです」

 

南極大陸横断とか世界周航のように初めてが名誉なこともある。しかしIT業界における製品の初利用というのは名誉どころではない。地雷原にひかれたレッドカーペットに最初に歩かせられるというようなもので、愚かものでなければ気狂いである。色々と聞いたあとに納期はどうなっているのかというお決まりの質問をした。

 

「納期は当初12月末と要望されたのですが、流石に無理なので交渉中です。年明けぐらいか、向こうの繁忙期にリプレイスできないので様々なパターンが考えられます」

 

エンドユーザーはIT素人のアホ企業なのだろうか。外部サービスとのAPI連携、古代のソースコードからの詳細設計起こし、オフショアの実装とフィードバック。それらを含めて2ヶ月を想定していたということで、しかも納期延期の交渉中ときている。これはつまりエンドユーザーがいかに素人で、しかしながら相当強い立場にいることを示している。いや、これはさすがに絶対に無理だ。分割納品とかそういうあれなんだろ?と思い尋ねる。

 

「もちろん分割納品であれ一括納品であれ、我々がやることはしっかり実装するということであり、その点お手伝いいただければと思います。」

 

ようするに分割納品でさえ受け付けてもらえない相手ということであり、「しっかり実装」のための期間さえないが会社の方針として断れないというとんでもない状況だったのだろう。僕はすでに断るつもりでいたから、お気楽に聞き流していった。フリーランスのいいところは地雷が見えたら一目散に逃げられることだ。しかし僕の目の前に座る哀れなエンジニア2人はこの案件をこなすことでしか生きる道がない。ジンギスカン作戦のように、大本営という名の経営陣、牟田口のような社長に命令され請け負って、活路を開こうとしている。だがこの2人が今狂っていないとしても、今後発狂する以外の未来があるのだろうか。

 

「ところでお聞きしておきたいのですが」

説明をするマネージャーらしき人は狂気をはらんだ眼で僕を見る。

 

「今後人を増やしていくことになると思うのですが、弊社のPMだけではすべてを見れないかと思いますので、ビジネスパートナーを取りまとめるサブマネージャーとしての立場などは引き受けられたりできますでしょうか。もちろんそういうことが可能であるかどうかの確認です。」

 

どうしたらそういう発想ができるのだろうか。一部とはいえチームの取りまとめを15分前に初めて会ったフリーランスの男に依頼する。重要な役割を1ヶ月いくらの男に、特別な信頼もない、素晴らしい報酬も与えない存在に、ほのめかすことができるのだろうか。いくらジャングルの中の強行軍を強いられたとして、得体の知れぬ傭兵に部隊の指揮権を委譲するなどという愚行があるだろうか。社内のキャパシティを遥かに超える仕事を会社の上層部の決定で強行され、何とかするために地獄へ道連れにする生贄を血眼になって探しているという具合である。

 

もうひとりの、おそらくメインとなるエンジニアの目はすでに疲れているように見えた。僕から見ても彼らが現状を理解できないとは思えない。大抵の会社は僕以上の能力を持ったエンジニアがいて、そういう人が中心となっているケースが多かった。そして目の前にいる2人はちゃんとした能力があるはずであり、だからこそ困難な任務に割り当てられたのである。当然プログラマの素養が多少なりともあれば、これが非現実てきなプランであることは明白だ。本来なら引き受けないか、怒りをぶち撒けながらエンドユーザーの腐れた頭に糞を投げつけるぐらいのことはしていいはずだ。

 

赤字前提での方針か、会社づきあいからの森友学園案件か、損失で税金を払わないための高度な戦略か。想像することしかできないが、いずれにせよ参加者はただ損以外になく、だからこそ10月の終盤でこの人材募集の体たらくなのだろう。すでにレクイエムの演奏は始まっている。

 

こういう絶望的な案件においてフリーランスは責任転嫁の餌食である。反論する機会も与えられないため、なんたらというフリーの協力者がヘマをしただの、勤怠が悪いだの、バグが多いだのと文句をつけ、もちろん責任こそ問われないが、請け負った会社が悪くないかのように体裁を整えるためのサンドバッグになりがちだ。会話の中だけでもそうやって社内以外の誰かに負わせて、結束を高めつつ存続を図るのだろう。

 

いやしかし、このご時世でそういったことをする意味なんてあるのだろうか。人材が払底しているのに、短納期で引き受ける絶望案件を平然と請け負うクソ企業が継続することにどれほどの価値があるのか。今どき最初に赤字で受けて別の良い案件を取るなんて自滅的な営業が通じるのだろうか。働き方改革だとか、育休だとかが話題になる令和に、「稼働が高くなることをご了承いただきたく」などとプロジェクトの開始前から言うなんて、それはすでに計画の失敗であるということではないか。

 

だから我々の業界は人材が払底したのだ。35歳で定年だとか、PGはブラックと言われた頃からテクノロジーは進歩したが、経営者の舵取りは何ら進歩していない。

 

僕らのバックグラウンドに流れる音楽はいつだって彼らが奏でるレクイエムのみだ。