フロイドの狂気日記

時は流れ、曲も終わった。もっと何か言えたのに。

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営業に捨てられ、営業を捨てる

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残り物には福があるらしい。

 

1年ほど前から半年ほどしていた案件のことだ。僕は乗り気ではなかったが、スコットランド旅行から帰ってきたばかりで仕事が決まっておらず、引き受けた案件は僕の失態とPMの癇癪で燃えに燃えた。ここまで人に憎まれることなんてあるんだろうかというぐらいには嫌な目を見た。僕が営業を任せている会社Aの担当者Mくんは塩顔のイケメンだ。標準語敬語、決して感情を表に出さない。嫌なことを一つも言わず調整役に回る営業マンだ。そのひどい案件では感情的になったPMがMくんを呼びつけては無意味に切れ散らかしていたそうな。そうして案件が終わったとき、Mくんは僕に言った。

 

「しばらく東京に行くことになったので、弊社のFさんに引き継ぎしますね。」

まあそういうこともあるんだろうと思っただけであった。その後Fさんに引き継がれ紹介された案件は素晴らしいホワイト企業から楽園で過ごすような仕事だった。その案件は何事もなく終了し、1ヶ月も休んだ僕は新しい案件を探し始めた。FさんとMくんの営業スタイルは違っている。Mくんは何件もある仕事の内、1件を決めて僕に紹介する。そうすると面談を設定する日は一日でいいし、Mくんは楽をできる。効率的な営業だ。引き継いだFさんは10件ぐらいは案件を送ってきてどれがいいかを聞く。僕はFさんのほうがありがたかった。

 

半年ぶりにFさんに会う。何気なく僕が尋ねる。

「Mくんは元気ですか?東京にいったんでしょ」

「Mくんはずっと大阪ですよ。元気してます。」

 

ああ彼は優しい嘘をついたのだ。フロイドの営業から降りたいというのを角を立てずに対処したのだろう。僕は何も思わなかった。

 

さて10月の最終週にもなって仕事が決まっていない僕は、とりあえず受けることになった上流設計工程の仕事の面談に来た。待ち合わせ場所にFさんが来る。

「内よりも上位の会社が何社か絡んでいるみたいです。申し訳ない。」

 

その言葉で少しうんざりした。僕の営業を任せているA社がある。エンドユーザーから仕事引き受けている実際に現場に入っている会社D社がある。D社は同じ地域のC社に人探しを依頼する。C社はB社にも依頼する。B社がA社を発見して僕にお誘いがかかる、という具合だった。バカみたいだろ?これらの会社は人材紹介料をピンハネするのだ。ここで実際にエンドユーザーから金をもらって人材のメイン管理をするD社だけが存在価値がある。僕からすればなんの付き合いもないBC社なんぞ金をピンハネするだけのゴミである。こうなったら仕事を受けないで、貧困生活を我慢するから11月も休んでやろうと思い始めていた。念のために言うとこのような多重構造は最近では珍しくなっていた。

 

待ち合わせ場所にB社の人が来て、Fさんと話す。Fさんは終わったら連絡くださいと僕に言い残して去る。C社の営業がやってきてB社の人と軽く挨拶をする。そしてB社の営業は去る。そこにD社の人がやってきて3人で面談をすることになる。コントである。実際は技術者であるところの僕とD社の営業マンだけで十分なのに。

 

さてうんざりしながら面談を始める。いつも通りこなすが、普段と違ったのはD社の人の態度である。

 

「こんな素晴らしいご経歴をみたのは久々です!」

「若すぎる人や年を取りすぎた人はいるんですけどねえ!」

「こういう人はなかなか市場にでてこないんですよ」

「ウチで囲いたいぐらいですよ!あ、いや、もちろんC社さんの仲介でですけど!」

 

とべた褒めである。僕が経歴の説明をする前に、ぜひ来てほしいといわれる。なんだかなあ。でもピンハネされまくるから嫌なんだよなあと思っていたが、徐々に僕の中の強欲魔神が目覚めてくる。

 

「ところでなんて会社名なんですか」

僕が聞く。そう、この業界会社名なんぞどうでもよくて紹介さえしないのだ。

「名刺渡してもいいですかね」

とC社の営業に気を使いながら名刺をくれたのがトリガーとなった。当たり前なのだが、このコントみたいな面談にかかわった人たち全員がD社以下の3つの営業会社を無意味だと思っている。なんだったら技術者の勤怠表なんかを共有したりするだけ手間が増えている。だがそれを言うと、今後の技術者紹介の旨味がなくなりお互いにとって損だから何も言わない。僕だけが損をする糞システムである。

 

さてここで案件を引き受けて、哀れな子羊である僕が搾取されました、で話が終われば世の零細IT営業マンたちは胸をなでおろすだろう。だが搾取という言葉に人一倍敏感な僕はそれで終わらせるわけではなかった。とりあえず条件面だけ詰めてくださいと言う話をして去る。だが久々のスーツを着たまま繁華街をうろついて機をうかがう。

 

しばらくすると労働条件と金の話がやってくる。案の定ピンハネされたバカみたいな金になっていた。僕はちょっと考えて返事をするといって営業担当を待たせた。その金から僕が本来受け取るべき金額を相場から逆算する。頭をフル回転させる。これに失敗すると11月の仕事がなくなり、年末はすかんぴんで過ごさねばならぬ。

 

先程もらった名刺に会社の電話番号がある。そこに電話をかけて折り返してもらうように伝える。僕が家に帰りしばらくすると先ほど面談していたD社の営業マンから連絡が来た。ショータイムである。

 

「先ほどの案件ですが、御社と僕との間に3社ほど挟んでいて上流工程とは思えない単価になっています。なので今回は断ろうと思っております。ですがD社と直接取引をできれば引き受けようとおもいます。」

 

11月スタートなのに10月最終週に決まっていない焦り、それはD社も同じである。人がいないと進捗が遅れる。しかし人材は選ばねばかえって予算を使いきるだけになる。実際の現場を取り仕切る営業マンは、この人材不足のご時世でかなり厳しい状況なのはわかっている。零細企業でピンハネをする連中とは違って、現場をこかすわけにはいかないのだ。足元は見ないと食われるのが貧しい大阪のビジネスだ。

 

「30分ほど待ってください。僕個人としては2つ返事なのですが、上に話さないといけないもので」

 

意外だったのかもしれない。僕からすれば勝算はあった。来月開始のギリギリのタイミング。めったに現れない経験豊富な30代。僕自身、脂が乗っている売りどきだということはよくわかっている。だからこそ年をとるのが怖いのだが。ここで直接取引でなければ断る、といったからには交渉失敗した場合は断らなければならない。僕としても貧困生活一歩手前のかけでもある。交渉しなければお金は入るわけだから。

 

1時間ほど待ったであろうか。再度連絡があった。

「ウチとしてはOKが出ました。実のところフロイドさんに是非引き受けて欲しくて、弊社の利益を取らないでC社に払う予定だったのです。直接取引となるとこちらも利益を確保するように言われまして」

 

ここで値踏みの仕合である。僕はかなり高くXX円ぐらいだろうという。

「正直に言うと○○円ぐらいです。」

「それなら△△円と消費税を僕に払ってくれればいいです。」

「とりあえず他の会社には断られたということで話を合わせておきます。現場に関係者がいないからバレることはないでしょう」

商談は成立した。

 

さて結果どれくらい僕は得をしたのだろう?

 

大雑把に10万円ほど月々の払いが違った。長らく営業担当をしていたA社とはしばらく疎遠になる。残念だ。だが3社ピンハネの状態にこれが大阪では仕方ないんです、という態度を取れば、能無し出ない限り動くだろう?

 

僕は彼らを切ることで毎月10万もの金額を追加でもらえることになった。そして新しい営業会社の存在も手に入れた。上前だけをハネればいいという零細IT営業は徐々にであるが厳しくなっているようだ。

 

僕の営業担当を降り立って何も言うことはない。

だが僕が営業担当を変えたってやはり何も言うことはないのだ。