フロイドの狂気日記

時は流れ、曲も終わった。もっと何か言えたのに。

PR

2019年の英国選挙を反面教師にすべき日本の野党

PR

 
Brexitが2016年に決まって以来、英国のニュースには注目してきた。主にBBCとThe Guardian誌のUK版、たまにDaily Mailといったものを読んできた。そこで手負いの与党からどうやって政権を奪うか、という野党の立場と、大きな物語を抱え分断した国民と、空転した議会を観察していた。
 
英国民でさえない僕がイライラするほどBrexitで政治は混乱していて、当のイギリス人はそれで鬱になる人がいるほどだった。ボリス・ジョンソンが首相になるころには、「なんでもいいからBrexitを終わらしてくれ」というコメントがThe Guardian誌に書かれたほどだ。
 
ちなみにGuardianは日本でいうところの朝日新聞で、今回の選挙中もジョンソンを批判するようなネタを一面に持ってきていた。BBCはそれに比べれば中立的だったと思う。Guardianを見ていると、はてブのブクマとかぶっていて違う国ながら左派の言動は似てくるのかもしれないなあと関心していた。
 
労働党の敗北は色々と言われているが、まとめるとこうなる。
 
「何が嫌いかより、何がしたいかで政治を語れよ!」
 
ボリス・ジョンソンの戦略は最も大きな物語であるBrexitを完了させるで一貫していた。そのための取引もEUと済ませた。「10月までに離脱できなければ溝で死んだほうがマシだ」と豪語したほどだった(結局間に合わず延期したが)
 
選挙中もそれは変わらず、ずっとBrexitを中心にしていた。それに対して労働党のコービンは何をやりたいかがわからない戦略だったように見える。特に「2度目の国民投票」は党内の調整はともかく、EU残留派の中にもやめておくべきだという声が大きかった。そのためEU残留を明言した自由民主党に票をとられたようだ。
 
 
さすがにゴシップで記事を書いていただけあってボリス・ジョンソンは国民が何を気にかけているか、ということを完全に把握していたらしい。データを見ても、離脱派、残留派というのは2016年からほぼ変わっていない。一部報道では離脱派が後悔しているというものもあったが、そんなことはない。
 
 
離脱派は45%、残留派は50%、決めかねているが5%程度でここ3年大幅に変化があったわけではないのだ。となるともはやどちらかに結論を寄せる以外にはないのだ。ジョンソンが離脱派に寄せたのに対し、コービンはどちらにも寄せなかった。大きな物語を読む力がなかったと言える。
 
陰謀論的な話題に頼ることもあった。特にイギリスの国教とも言われる国民皆保険(NHS)をアメリカとの貿易交渉で民営化してしまうとジョンソンが企んでいると報道されたため、コービンはNHSはアメリカに売らないと喧伝した。もしアメリカに売らないと言い切るなら、EUのルールに残留してアメリカとの個別交渉の可能性を潰すべきだったのだが、その矛盾にはなんとも思わなかったらしい。
 
コービンは以前から極左と呼ばれ、インフラの国有化、大学の無償化などを掲げたが、財源はどうするんだ、という疑問には答えられなかったようだ。これは日本でもかつて見た光景だ。それに保守党がBrexit党と完全に協力できたのに対して、労働党自由民主党Brexitやその他の政策で不一致を起こし、同じ選挙区に候補者を立てることで保守党を有利にした。その結果、今日労働党は大惨敗をした。
 
 
そして日本である。桜の会問題で弱体化しつつある安倍政権は衆院解散を図るかもしれない。その空気があるからこそ、立憲と国民民主などの統合が進んでいるのだろう。タイミングを見て解散することは十分ありえるかもしれない。
 
日本の野党はイギリスの労働党と同じ轍を踏んではいけないのではないか。ポイントはいくつかある。
 
 
大きな物語の方向性を優先する
陰謀論に見える批判をしない
・批判は敵の勢力を削ぐが、味方を作らない
・野党間の候補者の調整は必須
 
日本の野党にできているのは候補者の調整のみである。まず立憲を中心とした野党が日本の政治をどうしたいのか、大きい方向性が見えてこない。日本にはBrexitのような、すでに決定づけられた大きな物語がない。国民にアピールするための大きな政策を持つべきだろう。
 
今回のイギリスではアメリカにNHSを売り払うだとか、ロシアの選挙介入というような定番となった外国の策略といったものが紙面を賑わしたが、そういったのは極端な人にしか受け入れられないのだろう。一般的に言えば、そこは自分たちでコントロールできる範囲だろ、としかならない。自分たちがどうあるか、ということを明白にせねば、外国の敵のようなものをほのめかしたところで、ちょっと頭の足りない人に見えたはずだ。
 
そうして敵の失点やダメなところをあげつらうことに終始した(ようにGuardianの記事からは見える)ようなことは真似してはならない。毎日Guardianをアプリで見ていると、コービンの労働党が何をしたいのかは全く見えてこなかった。とにかくボリス・ジョンソンが嫌いなんだろうということはわかったし、コメント欄も嘘つきジョンソンへの批判が多かったように見える。それはサイレントマジョリティの心には響かなかったのだろう。
 
国労働党の大敗からは、野党と極端な勢力にありがちな失点の積み重ねが見えてくる。敵を叩くより、味方をどうつくるか、ということをうまくした勢力が勝利に最も近いということかもしれない。
 
ありとあらゆる腐敗をはらんだ安倍政権は積極的に支持されているようには見えない。景気も見える範囲で指標が悪化している。前回民主党が政権をとったときのような空気感がネットから感じられるようになってきている。数年前は安倍政権を疑う市民は売国奴のような叩かれ方をしたものだが、今は安倍政権を味方する勢力もかなり衰えている。
 
自民党を弱体化させる最大のチャンスが迫っているように見えるが、野党には大きな物語や国の方向性が見えてこない。政治に失望気味のサイレントマジョリティを引き込む物語がなければ、腐敗した自民が勝利し、腐敗は許されたのだと喧伝するようになるだろう。
 
国労働党の失敗を日本で再現しないように祈るばかりだ。