フロイドの狂気日記

時は流れ、曲も終わった。もっと何か言えたのに。

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小林賢太郎は自業自得。キャンセルカルチャーではない

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小林賢太郎氏を解任 五輪開会式演出担当、ホロコーストをやゆ | 毎日新聞

 

かつて僕がまだ未成年の子供だった頃、爆笑オンエアバトルという芸人のネタ見せ番組にラーメンズがでていた。ラーメンズ小林賢太郎片桐仁のユニットで今は解散状態にある。

 

子供の僕はラーメンズのコントを見てすごく気に入っていた。オンバトラーメンズでないかなあと思っていたし、ラーメンズが出場したときには受かってほしいと思っていた。(オンエアバトルは会場客からの投票得点形式で上位半分しかオンエアされない)

 

ラーメンズの価値とはなにか、といえばその「物珍しさ」にある。大阪の芸人を見ればわかるが、笑わせ方にはある程度同じスタイルがある。勢いとか喋り方とか。一方でラーメンズのコントはかなりレアリティが高い。だからもっとみたいなあと思ったりする。

 

ラーメンズはおもしろくない、という人がいるのも理解できる。率直にいうと爆笑させるような内容ではない。一般的な笑いでもない。かなーり露悪的な言い方をすれば「あいつらラーメンを食べているんじゃない。情報を食っているんだ」みたいな笑いとでも言えるだろうか。単純に笑えるネタなら他にいくらでもある。そういう普通感が好きでない人が飛びつく芸人だ。だからアングラですごく人気だし、固定ファンが多い。一方で大衆受けするわけでねーだろ、とも言い切れる。

 

ラーメンズのことをとっくに忘れていた今頃になって小林賢太郎が五輪に関わっていたと知って、知った瞬間に解任されていた。これをコントみたいだと評する人もいるけれど、ぶっちゃけ笑えない。道徳的な意味ではなく、彼の人生的な意味合いで同情してしまう。

 

ラーメンズはユニットだが両者それぞれ人気があるタイプだったし、アングラでは無双状態だろうから、金には困っていないはずなのだ。にもかかわらず五輪なんてものに関わった理由を想像すると悲しくなる。

 

芸人の人生はシビアなもので歳を取ると悲壮感が増す。ネタの精度とか流行りすたりとか、ウケるコントをしていられるとは限らない。ラーメンズのスタイルは尚更形式が珍奇であるから、続けがたいものがあると思う。通常の漫才師だって歳を取るとつまらなくなるケースがほとんどだ。

 

彼はどんどん歳を取る中で芸人というよりはおしゃれタレント的な立ち位置にシフトしていって、裏方のキャリアを歩もうとしていた。そんな中で実利と権威を兼ね備えた五輪の仕事を引き受けたのだろう。これが成功すれば裏方としては安泰のように思える。世間的には権威ある立場になる。

 

だがしかしラーメンズというのは際どいネタ上等のアングラ向けスタイルで大衆受けするタイプではない。その中にホロコーストネタがあったといことだろう。悲しいことに彼らはなるべく目立たずに権威とは正反対の場所でしか生きられない人たちであったと思う。本人だって自覚していたと思う。ところが表の道を歩みたいと思ってシフトした結果、悲劇になった。そうはいっても「現代片桐論」みたいなのをいつまでできるかって話でもあって、そういう加齢におけるキャリアシフトの事故みたいなのが、僕のような人間には胸に来る。

 

際どいネタに手を出すというのは覚悟がいるのだ。アングラにさえいれば、今だってホロコーストネタが許されるかもしれないのだ。どうせ気づかれないという理由で。つまり小山田と同じで、権威的な正道に出るべきでない人がでてしまって、案の定、過去の自分に足を救われたというオチがついた。

 

彼はアングラ人間だと自身で理解していたから裏方にシフトしたのに、それさえ許されなかった。少なくとも権威的な裏方の道は閉ざされた。ここに取締役になる目前で権力闘争に負けて左遷されたサラリーマンみたいな悲哀を感じる。

 

しかしアングラというキワモノの道を選んだ人間の自業自得である。アングラ系は一定数の固定的人気を得やすい。ある種のチートみたいなところがある。正道の芸人は競争が極端に激しいからだ。ラーメンズはそれで金と人気を得てきたのだから、正道に戻れないのは仕方がないのだ。

 

松本人志だって北野武だって、という人がいるかも知れないが、彼らは権威を与えられる立場になろうとしなかった。北野武はもう晩年の人生であり、まだ芸人だけれど、正直言うと逃げ切った世代だと思う。実際に昔の監督のスキャンダルとかが最近になって露見してバッシングを受けたケースは多々ある。時代が変わる前に権威を得た最後の世代ってところではないでしょうか。なので今後、権威的な地位の仕事しようとすると、彼らと言えどタダでは済まないと思う。

 

今後の小林の人生がどうなるかはわからんが、表向きクリーンを演じるスポンサーが嫌がる印象がついてしまった。まあ貯蓄とかあるだろうし、ぼつぼつと作家業とか名前を隠してやるとか、手段はありそうなが救いだろうか。キャンセルカルチャーというよりも表に出れないヤクザが、警官バッチを付けたがるみたいなことをしたのが悪い。

 

なので批判者達を批判する、ということに正しさはないと言えるかもしれない。