フロイドの狂気日記

時は流れ、曲も終わった。もっと何か言えたのに。

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Netflix「イカゲーム」は日本が手に入れられなかった場所に立った

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世界中で大ヒットというドラマで、久々にぶっ通しで視聴したドラマだ。最近視聴した韓国ドラマはこれで、「愛の不時着」「梨泰院クラス」「ヴィンチェンツォ」に続いて4作目。まーおもしろい。ヴィンチェンツォがそこまでハマらなかったので韓ドラも頂点クラスだけおもしろくて、他はほどほどなのかと思っていた。ところが、半年に一度ぐらいは僕のようなあまりドラマを見ない人間にもガツンとくる作品が来るぐらいの製造サイクルができてるんじゃないかと思わせた。

 

とにかく面白い。一部では、日本の漫画でよくあるバトルロワイヤルもののパクリだと批判されたりするんだけれど、この物語のすごいところはゲームの発想よりも社会情勢と問題点を組み込んでいて、ゲーム自体はシンプルで凝っているものがない。

 

なんでこんなに面白いのかというと単純に映像技術的なものだと思う。見せ方、演技とテーマ性がバランスよくできているのと、役者選びも良い。何が良いかと言われると、借金まみれの人たちということで、みんなカッコよすぎない、美人すぎない配役を選んでいる。全員、借金してそうな如才のない風貌だ。主人公ギフンもイケてないがダサすぎないというちょうどいいバランス。ゲーム内容は賭博破戒録カイジあたりがやっているのと大差ないので、日本人的にはなんで今さらこういうのが、と思ってしまいがちだ。

 

■役者選び

韓ドラを見ると典型的な韓国美人がヒロインだったりするが、今回の出演者はみんな美人でも美男子でもない人たちを揃えている。借金まみれのダメ人間を集めてゲームさせるというテーマだから、メイクなどもキメすぎないようにしていると思った。日本だと事務所が売り出しているイケメン・美女を採用しがちなところ、ちゃんと役割にあった演技派を起用しているようだ。

 

■キャラ立ち

チンピラ、テンションの高いおばさん、だめオヤジの主人公、落ちぶれたエリート、不憫な脱北者、死にかけの老人、搾取されている無垢な外国人労働者などなど、キャラクターがとにかく個性的。役割もバラけていてどれもダサかっこいいところがあり、愛されキャラクターを成立させている

 

■セットが個性的で豪華

Netflix的には安い予算らしい。一話あたり2-3億円ほどで9話で27-30億と予想されている。日本の場合、大河ドラマで8000万ほどらしく、話数が短いとはいえ随分と投資の差がでている。タイトルコールのCGといい、衣装といい安っぽく見えないのは素晴らしい。単純に予算の差なのであろうか。単なるジャージを着せた集団だが、舞台が豪華でデザインがイケてるからか、安っぽく見えない。専用セットは作ってなんぼだと思いました。そうはいっても30億という金を日本が出せないとは思えない。にもかかわらず予算が安いのはテレビ業界の風習に引っ張られているからだろうか。

 

■総合力が高い

細かいところでしくじらないというか、役者はちゃんと選ぶ、セットもチープに見せない、ゲーム内容だけで勝負しない、社会問題を入れるもくどくない、兄弟愛、家族愛、地元愛など感動要素も入れる、バイオレンスもある。とキチッと組み上げていてケチ付ける部分があまりない。確かに既視感はあるんだけど、発想一本で勝負しようとしないところはいい。

 

■日本が手に入れられなかった地位

カイジの連載が90年代で流行ったのも随分前だ。映画化も何度もされている。つまり「イカゲーム」を作れる土壌はあった。アイデアはあったわけなのだから。日本は脚本の才能などが漫画業界に偏っていると言われる。漫画は稼げるし、作家がある程度全部自分で制作できるからだとされる。映画はチームワークで作らざるを得ない。そこはたくさんの人々が関わるわけで、一人の天才がすごいものを作るって感じじゃなさそうだ。日本はこのチームプレイになると、派閥と癒着が出てきて、芸能事務所の強さとかテレビ局の意向とかに振り回せれているイメージがある。実際に日本国内の売上や視聴率が取れないとだめって傾向が強いからか、売上の上限も大体決まってて、それに応じた予算しか出ないってのがだめなんだろうね。

 

鬼滅が400億ヒットといっても異例中の異例だし、映画なら10-20億程度でも良い成績とされる。とりあえず20億ぐらいでたくさん黒字でるように調整しましょう、みたいなしみったれた話になるんだろうと思う。それに向けて広告と役者とセットを考えるなら、まあ韓ドラみたいな予算はかけられないだろうと思う。30億かけて売上30億じゃ銀行の利息も払えないし次に続かない。

 

東京に住む映像業界の重鎮だって散々海外目指そうとしてきた歴史はあるので、それでうまく行かなかったのだから、内向きの理論が支配してもしかたがない。ハリウッドじゃなけりゃヒットしないみたいな諦めがあってもおかしくない。そのアジア人の感じている壁みたいなものを、「パラサイト」であったり「BTS」だったり「イカゲーム」がぶっ壊した感はある。最近の韓国はここ10年20年の外に向かっていく継続の努力が花開いたところがありそうだ。日本の映像業界がこのようになれるかっていうと当分なれそうにないだろうなあ。世界から売上をとるぞ、的な価値観を予算持ってる人たちに植え付けるまでの時間さえも必要だと思う。

 

国際都市といいつつ、微妙に旧態然のインナーサークル支配者が君臨している東京だと無理っぽい気がする。自分たちがテッペンみたいな万能感持って仕事したがっているように見えるし、世界になんとしても届ける的な執着心もなさそうだ。東京に住んでりゃ仕事はあって成功すれば金持ちにはなれるし。

 

韓国の文字通り国際的な成功が日本になにかもたらすか、というのは興味深いけれど、日本人は自分たちが下にいると理解したがらないから、日本は今の日本のままではなかろうか。