フロイドの狂気日記

時は流れ、曲も終わった。もっと何か言えたのに。

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アスペの人を見捨てない、見捨てるな

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とあるソシャゲをしている。そのゲームにはプレイヤーがゆるくつながるギルド的なものがある。トークしたりチームプレイしたり、だ。大抵のソシャゲに備わっている。

 

僕の所属ギルドはとてもまったりしたものだった。民度が高くゲームが中心で、プライベートに踏み込んでくる人はいなかった。素晴らしい組織だったが、ソシャゲはリリース時が人口のピークであり徐々に減っていく。僕はギルドもゲームも好きだったがメンバーが減っていくとゲームの協力プレイは難しくなる。しばらくして物凄くイン率が高かったギルドマスターが失踪した。1週間戻らないので、メンバーは集団で合併できるギルドを探した。サブマスターである僕が色々候補を探して、その中で一つ選んだ。合併は滞りなく行われしばらく経った。いいギルドであった。

 

合流前からずっと一緒にプレイしているメンバーの一人にX氏がいた。X氏はまごうことなきアスペとかADHDとか言われるような人だろうと思う。シンプルに会話がズレている。このズレは悪意のあるものではなく、単純に噛み合わない、だ。この噛み合わなさを例えるのは難しい。

 

A氏「夕飯の牛肉の骨をひたすらしゃぶってる。味ないけどしゃぶってる」

B氏「犬かよ!」

X氏「薬かよー!」

 

こんな感じだ。A氏とB氏の会話は誰でもわかるだろう。犬は骨をしゃぶるのが好きだからだ。だがX氏のツッコミはズレている。骨をしゃぶるに対する、薬という発想がどこからくるのかわからない。中国では骨を砕いて薬にするとかいうのを聞いたことがあるようなないような、そういうことなのだろうか。もちろん本人に聞けばわかるかもしれないのだが、こういうズレた会話をしょっちゅうされるので、いちいち聞いても仕方がないか、という気がしてくる。パワハラとかセクハラではない。何というか、ズレているだけなのだ。

 

X氏はアスペっぽい、あるいはボーダーとも言えるところは他にもある。例えばボスキャラに状態異常スキルは効かないというのは、たいていのゲームでよくある仕様である。ところがX氏はボスに状態異常スキルを使い続ける、ということをしていて、当然チームプレイなので、注意をする。その後もしばらく同じことをする、ということがあった。これは繰り返し注意を受けたからかしなくなった。しかし属性を理解しないという問題もあった。火属性のモンスターだから水属性スキルを使わないといけないが、火属性スキルを使ったりする、というようなことだ。これは敵がパッと見て属性がわからないということもある。だが彼は注意されてもしばらくそれを続けるということがあった。

ゲームバランスの偏りで極端に強いスキルがあり、ほとんどの人がそのスキルに依存している時も、全く違う弱い攻撃スキルを使ったりしている。それは今でもそうしている。もしかしたら見た目がカッコいいから使っている、かもしれない。チームプレイで強力なボスを倒すときもそういうことをする。ギルドのメンバーたちは注意することはしない。そこまで効率を求めたって仕方ないし、倒せないこともないし、というわけだ。

 

問題は合流後、しばらくして起きた。合流先ギルドの主要メンバーがサブキャラを残してメインキャラを別のギルドに移した。何人かは多忙でログインしなくなった。焦ったギルマスがヒアリングをした結果、ギルドへの不満がでてきたようだ。その中にX氏との話が噛み合わない、なんかおかしくてそれが原因で話しづらい、というものがでてきたそうな。X氏がいなければ盛り上がるけど、X氏がいるとチャットが凍りつく、楽しくない。その後、「X氏を除名しようと思うんだが」という相談が元ギルドのサブマスで合併を取りまとめた僕にやってきた。

 

さてX氏がズレているのは元ギルドのメンバーたちも知っている。しかしX氏の素晴らしいところは優しいという点だ。例えばデイリーミッションのような、1日1回チームプレイ限定で経験値がもらえるクエストがある。1回プレイするとそれ以上経験値はもらえない。しかしフレンドやギルメンを手伝うことができる。そんなクエストではX氏は経験値にならなくても率先して協力してくれる。そういう非常に親切なところがある。気遣いというか、彼なりの優しさは感じさせるいい人なのだ。

 

彼はプライベートについて話すわけではないが、ずっと一緒にゲームにいると生活スタイルなどが発言からわかるようになる。「若い男」「引きこもりがちかインドア派」「金持ちではなく」「そして友達も少なそう」といったところだ。リアルでもそうなんだろうな、と思った。少しズレているんだろうな、と思った。しかし実直で優しいところは間違いないんだ、と感じさせる。

 

ギルマスから除名したいと言われた時に、考えさせてくれとだけ返事をしたが、僕の腹は決まっていた。X氏を傷つけるようなことはしたくないということだ。そこで元ギルドのメンバー達に話をしていって、X氏を除名した後で楽しくプレイできないだろ、というような話をした。賛成してくれる人たちばかりだった。そしてメンバーを取りまとめて別のギルドに行こうということになった。ギルマスに除名は勘弁してくれないか、という話をしたが、合流先ギルドの人たちの多数がズレたところに文句を言ってて難しい、ということになり、抜けることになった。彼一人を切り捨てれば済む話なのだ。だがそうはいかない、してはならないのだ。

 

僕は以前からはてな界隈の自称アスペ、ADHD精神疾患を名乗る人たちが好きではなかった。すぐに自分を救えと主張するような弱者は嫌いである。だが目の前に、心優しいボーダーらしき人が切り捨てられそうになった時、自分は心の底から助けてやりたいと思った。助けるというほどのことではないが、「お前の会話はわけわからんから楽しくない、だから失せろ」などという言葉は聞かせたくないと思った。なんとなく、こういう目にずっとあってきたんだろうな、ということが想像できた。

 

メンバーたちに「X氏ってズレたところがあるから」というと「わかる」と返事がくる。「でも優しいし切り捨てるほどじゃないだろう」というと「そうだね」とくる。これが正しい人間社会じゃないか。X氏はこのゲームを楽しんでいて、イン率が高く、彼の居場所なのだ。次の移籍先を零細ギルドではなく最大手を選んだことで、彼のズレたチャットはすぐに流れていく。メンバーが多ければ誰も気にしない。

 

ギルマスには何も言わずに去るから、という合意をとって、X氏にはそのような事情は知らずに、相変わらずゲームに彼の居場所がある。ズレたところは治っていない。治ることはないんだろう。どう見ても生まれついてのもののようだ。きっと現実では苦労しているんだろうな、と思う。

 

この純朴な青年の居場所がシャバにあってほしいと思う。たとえ仮想世界であっても楽しいと思える場所があってほしいと思う。

 

能力が低かろうがズレていようが善人から居場所を奪うようなことはあってはならない。あってはならないんだ。