子供の頃からミスチルが好きなんだけれど、今となってはそこまで聴くことがなくなっていた。最近spotifyで聴くようになったのは、アルバムの発売日とその時の自分の人生を重ねるという聴き方を思い出したからだ。すべてのアルバムを聴いているアーティストなんてミスチルぐらいなもんで、自分用も兼ねて評価していく。ミスチル初心者用にキャッチーな曲もメモする
- 総評と桜井和寿が失っていったもの
- EVERYTHING
- Kind of Love
- Versus
- Atomic Heart
- 深海
- BOLERO
- DISCOVERY
- Q
- It's a wonderful world
- シフクノオト
- I LOVE YOU
- HOME
- SUPERMARKET FANTASY
- SENSE
- (an imitation)blood orange
- REFLECTION
- 重力と呼吸
- SOUNDTRACKS
総評と桜井和寿が失っていったもの
ミスチルはマニアックなミュージシャンではなく王道ポップスの売れ線代表みたいなバンドだ。デビューしてすぐにブレイクして何年も売れ続けた。売上だけなら今でも相当高い。影でほそぼそとライブ活動をする日陰のバンドではなく、常にアリーナやドームを満席にするビッグバンドである。ここ10年以上はかなり時代変化が激しくて、ストリーミング時代にミスチルの音楽は相当きついものがある。彼らは常にファンだけでなくそれ以外の聴衆に聴かれる曲を提供して売れてこそのバンドだけに、何作っても流行しない、という状態になると、全盛期を知るファンは物悲しくなってしまう。
とりわけ歌詞の変化は激しくて、活動休止後から徐々に世間に配慮するような歌詞が出てきて、2000年代の中盤頃には、本当に優しい歌詞になっていった。ミスチルの魅力に世間への皮肉や批判というのがあったが、ここ10年は批判的な歌詞はほとんどなく、むしろ世間に配慮し、全方位にいい顔をするようになっている。引用するならば”ちゃっかりした大人になって見失った宝物”ってところなのかもしれない。
20代のころの桜井和寿はもっと攻撃的で身勝手な歌詞を書いていたのだがそれこそがロックだったのだ。オッサンの年齢を超えて初老に近くなった桜井和寿は、タイトルや歌詞の中にロックンロールという言葉を混ぜ込むことがある。ただ彼がもっともロックンロールをしていたのは20代の頃だったと思う。ギターサウンドだけなら今でもロックをできるだろうけど、そこにある魂的なものは完全に失われてしまった。
まさしく全盛期の政治的に怒り狂うミスチルの曲「マシンガンをぶっ放せ」
"宗教も科学もUFOも信じれるから悲惨で"
"天に唾を吐きかけるような行き場のない怒りです"
「everybody goes -秩序のない現代にドロップキック-」
"仕事のできない連中はこういう、あいつは変わったうぬぼれ屋さん"
こういった直球の表現がさらっと出てきたのがミスチルだ。だが年食ってからは傷つけない歌詞しか歌わなくなった。今だと宗教否定に見えるだろう歌詞はうっかりしても入れないし、仕事のできない連中みたいな、誰かに深く刺さってしまう言葉は使わないだろう。
「彩り」
"僕のした単純作業が この世界を回り回ってまだ出会ったこともない人の笑い声を作ってゆくそんな些細な生き甲斐が 日常に彩りを加える"
"富を得た者はそうでない者より 満たされてるって思ってるの 障害を持つ者はそうでない者より 不自由だって誰が決めんの"
後期から今に至るまでこういういかにも善人な歌詞が増えていって、どうやって手を差し伸べるか共感するか、みたいなテーマ性がとにかく多い。これは大人として良い成長なんだろうけど、その結果ロックぽい部分はなくなってしまった。こういう歌詞を支持する人もたくさんいるので一概に否定はできないだろうけど僕は寂しくなった。若さゆえの勢いみたいなのはやっぱり完全に失ってしまったんだろうなあ。言うても50歳のおじいさん手前の人に何を求めてるんだって話ではあるんだが。
若くて無知で世間知らずだった若かりし頃の僕も、今や普通のオッサンになって社会や世間に迷惑かけぬように小さく生きるようになった。ミスチルから与えられるものはもはやないし、乾いてしまってはいるが、時々、若いときの自分を思い出して人生に重ねて聴いている。
EVERYTHING
記念すべきデビューアルバム。主に洋楽ではファーストが最高傑作というケースがあったりするけれどミスチルに関してはそれはなかったようだ。このアルバムが出たときなんて僕はまだ小学生にもなっていない。このアルバムを聴いただけで、将来メガヒット連発するバンドになる、とは到底予想がつかない。デビューさせた人はほんとすげえわ。ミスチルがブレイクしてもこのアルバムはさして売れなかったからね。思い入れもなければ聴き直す曲もないし、ミスチル初心者があえて聴くアルバムでもないと思う。CHILDREN'S WORLDって曲だけはなかなかポップではある。
■おすすめキャッチーソング
CHILDREN'S WORLD
Kind of Love
セカンドアルバムだが、今でも根強い人気ソングが含まれている初期の名作。今でも続くミスチルの基本的な曲調が含まれる。このアルバムを聴くとさすがにそのキャッチーなメロディセンスがわかる。ただし政治性はほとんどなくラブソング主体であるところが初期っぽい。クロスロードからのブレイク以降ジワ売れして100万枚突破したそうな。
■おすすめキャッチーソング
抱きしめたい
車の中でかくれてキスをしよう
星になれたら
ティーンエイジ・ドリーム(I~II)
Versus
初期三部作などとまとめられがちなデビューからサードアルバムである。甘酸っぱい歌詞にシンプルな楽曲ばかりなのだが、このアルバムからはミスチルの特徴たる政治性のある歌詞がチラッと顔を出す。一曲目のAnother mindがそれなのだが、ちょっとずつダークで内面的な桜井和寿の歌詞が出てきているのがわかる。10代の終わりみたいな作品。LOVEとかmy lifeはミスチル思春期ソングの最高傑作だと思う。
"いいことばっかあるわけないや、それでもMy life"
とかいう30代にも染みる歌詞が良い。
■おすすめキャッチーソング
Another Mind
Replay
LOVE
my life
Atomic Heart
クロスロードで100万枚のシングルヒットを飛ばしたミスチルは、そこから何年もミリオンヒットを飛ばし続けて、その時代の象徴的バンドになるわけだが、その絶頂期の始まりのアルバム。Versusで出てきた政治性の片鱗が花開いて、24歳とは思えない桜井和寿のひねくれ方が始まる。アルバム曲も粒ぞろいで、今でもライブで歌われる「Dance Dance Dance」「ラヴ コネクション」やミスチル三大曲の一つ「イノセントワールド」がある。サラリーマン10年やってますみたいな歌詞の「 雨のち晴れ」、歌詞の内容が今読むとクソ失礼なラブソングの名曲「Over」など、ミスチルファンがよく知る曲ばかり。今となっては無意味になったCDセールスだが、その当時のアルバム最高売上を塗り替えた。「Round About~孤独の肖像~」みたいな鬱屈した楽曲も入って、ミスチルの基本が完成されたアルバム。個人的にはあとから聴いたアルバムなので特に思い入れがない。
■おすすめキャッチーソング
Dance Dance Dance
ラヴ コネクション
innocent world
Round About~孤独の肖像~
深海
Atomic Heartからのミスチルは怒涛のヒットを飛ばし続けて、94-96年の日々は常人では体験できないものだったんだと思う。このアルバムはさらに政治性が深まり、この時期に桑田佳祐とAIDSへのチャリティーコラボとかしていたし、社会問題に関心が向いていたようだ。初期の甘酸っぱい感じは鳴りを潜め、戦争がテーマらしいコンセプトでできたアルバムがこれ。94-95年のヒットソングたちを入れずに、シングルの「名もなき詩」と「花」以外は連動性のある形になっている。確かにいい曲も多いんだけれど、ミスチルファンからの「これは名作」と言わねばならない圧力があるようで、僕はそこまで好きではない。とはいっても桜井和寿が失った社会への怒りが遠慮なく打ち込まれているので、そのエネルギーは感じられる。人生で一番の曲は?と言われたら「名もなき詩」を僕は選ぶけれど、このアルバム自体は統一感がある以外は特別ではなく、まずまずの曲が多くて、音楽だけなら良作ぐらいにとどまっている。テーマが時代性を強く伴っているので、今聴くと90年代中盤の社会問題を想起させて懐かしくなる。核兵器問題とかね。桜井和寿が一番尖っていた頃じゃないかと思うけれど、20代の中盤ぐらいだからそりゃあそうだろうなあと。ある意味では誰もが通る第2思春期的な、社会への怒りを全面に押し出したアルバムだ。歳を取った今となっては、このノリは可愛いなあとさえ思える。
■おすすめキャッチーソング
ありふれたLove Story ~男女問題はいつも面倒だ~
Mirror
花 - Memento-Mori -
深海
BOLERO
ミスチル第一部、堂々完結!みたいなアルバム。
バンドはこのアルバムを最後に活動休止に入る。今振り返っても活動休止期間はせいぜい1年ぐらいで、最近のアーティストには考えられないほどハードワークだと思う。
94-97年の残ったヒット曲を全部詰め込んで、シングル6、アルバム曲6の構成。このアルバムに含まれる「Everything(It's you)」という曲が大好きで、歌の大辞典という今はなき音楽番組で若かりし頃のロン毛桜井PVを見て惚れ込んだものです。アルバム曲もほぼ全部粒ぞろいではあるんだけれど、ミスチルの思春期が完全に終わってしまったことを思わせるので寂しくもある。
「タイムマシーンに乗って」「傘の下の君に告ぐ」みたいな曲は、前作「深海」のアルバム曲のような怒りではなく、もはや社会に呆れている空気を出している。ベストアルバムにも入っている「ALIVE」はそれでも生きていこうみたいな達観がある。「幸せのカテゴリー」という曲は、この先のミスチルアルバムのほとんど全部に入っている曲調と歌詞のメランコリーなラブソングだ。
振り返ると若者としてのミスチルはここで終わっている感じがして、この先のアルバムは歌詞の中身も割とオッサン臭がするようになる。こう見ると若さって有限だなあと感じる。この頃にはとっくに桜井和寿が子供の親になっているってもすごい気がする。
この時期の僕はというと、もうミスチルにゾッコンの小学生で、ブックオフに行っては100円の中古シングルをお小遣いで買って家で聴いていた。ミスチルの社会性の強い歌詞に思うことがあったんだろうなあ。とにかく家でずっと聴きまくって、風呂場で歌いまくっていた。音楽雑誌もたくさんみていたいし、ミスチルだけでなく他のアーティストもラジオで聴いていたし、とにかく自分自身が思春期だったのだ。だからこのアルバムの全部の曲を歌えるし歌詞も覚えている。思い入れ深いアルバムだ。
■おすすめキャッチーソング
だいたい全部
DISCOVERY
活動再開後の1枚目。新生ミスチルだが達観していて全盛期が終わって、ミスチル暗黒期と言われる売上がイマイチで(それでも高いが)音楽界の中心でもなくなった時代の始まりでもある。この頃はビジュアル系バンド全盛期だったかな。僕はそちらも全然好きだったけれども。GLAYとラルクがその頃の勢いあるバンドで、ミスチルはやや古臭くなっていた。
シングル曲「ニシエヒガシエ」が微妙ヒットで終わったけれど、ライブで歌われることが多かったので桜井和寿のお気に入りだったんじゃないかと思う。名曲「終わりなき旅」が久々の(といっても2年ぶりぐらいだが)ミリオンシングルになり、同時にシングルとしては最後のミリオンとなる。この時期はMDとかの録音がハイレベルになっていて、CDの売上も徐々に落ちていた。99年というのは音楽業界の分岐点みたいな年で、じつはトータルCD売上が最大になったのがこの時期だ。録音機械の発達ではなく、不況の顕在化が音楽の売上低下になってたんだろうけど。
肝心のアルバムの出来は「可もなく不可もなし」ではあるんだけれど、まだ若い頃の作品だけあって、メロディセンスは全体的にキャッチーなままだし、今とは比べられないほど尖っている。これを凡作とするとちょっと贅沢な気もするんだけれど、このアルバムから歌詞のノリが今に至るまで変化があまり感じられない。やっぱり成長期が終わったと感じさせる。
「アンダーシャツ」はやっぱり歌詞がオッサン臭いものの、ライブアルバムで聴きまくったので思い出深い。「Prism」のような人間の原罪を受け止めようとする虚しさと希望が入り混じったメランコリー曲もある。「Simple」「ラララ」「Image」のような落ち着き払った、人生気楽に生きましょうみたいな生活ソングも出てきて、この先のアルバムの主力の雛形みたいな曲調が増えてきている。アルバムジャケットがU2のヨシュア・トゥリーまんまなのはいただけない。
■おすすめキャッチーソング
Prism
Simple
ラララ
終わりなき旅
Q
めちゃんこいい作品なのにミリオン売れずに、ミスチル暗黒期の象徴みたいになってしまっている過小評価の可哀想なアルバム。シングルが大して売れなかったので釣られてアルバムも売れなかったけれど、楽曲は粒ぞろいだ。この時期はR&Bが流行って、新世代女性アーティストが次々でてきて、チャートにもミスチルの影がなくなっていた。貫禄のあるベテランバンドで、桜井和寿も30歳を迎えた。早熟だからか30歳なのに歌詞がやたらオッサン感強くて、見た目は若者でも内面が年齢以上というアンバランスだ。それぞれの曲からオッサン臭する歌詞をピックアップしよう
「友とコーヒーと嘘と胃袋」
"風のうわさで君の話を聞いたんだよ、結婚はしたけれどあまり幸せではないらしい"
「十二月のセントラルパークブルース」
"ちょっと待て僕は、もう30だぜ?十二月のセントラルパークブルース"
「Everything is made from a dream」
"ブルース・リーもジョン・レノンもこの世から去った今、あの感動を、あの情熱を、遺伝子に刻もうか"
「CENTER OF UNIVERSE」
"イライラして過ごしてんなら愛を補充"
とにかく社会批判というより世間の中の一人、みたいな、こじんまりとして小市民的フレーズが多い。それがこのアルバムのいいところでもある。桜井和寿が第二のイノセントワールド!とインタビューとかで語っていたシングル「NOT FOUND」はシングルの中でもパッとしないし、評価が高いわけでもない凡曲なのだが、たまにそういうことを言ってしまうのが桜井和寿だ。「重力と呼吸」のライブツアーのMCで「実は一番好きな曲」として紹介した「ロードムービー」も入っている。これは初期の甘酸っぱさを想起させる名曲である。アルバム曲はポップで粒ぞろいなのだが、ミスチルのアルバムの中では語られることが少ない。やたら壮大なアンセム「Hallelujah」みたいなのも、ミスチル元気だなーって安心する。ほとんど全曲キャッチーなので過小評価がすぎると思う。
■おすすめキャッチーソング
CENTER OF UNIVERSE
つよがり
Everything is made from a dream
It's a wonderful world
ミスチルの最高傑作アルバムは?というファンアンケートがあったら、多分これが選ばれるんじゃないか、と思う。このアルバムこそが新生ミスチルっぽさがあって、これ以降のアルバムの雛形になっていると言ってもいいほどだ。曲の内容はさわやかでQのようなオッサン臭よりも、もっと落ち着いてスマートな中年、というかお父さん感がある。
このアルバムを期に暗黒期を脱することになるわけだが、その理由はシングル「youthful days」のロングヒットだろう。この曲は意外なほど長くチャートに入っていた。やはりロン毛桜井PVのシングルにハズレ無しである。
開幕曲「蘇生」は、まさしくミスチルの蘇生を宣言する名曲。「ファスナー」のような内面の泥臭さを表現したりする曲や「LOVE はじめました」のように社会を揶揄する曲もあるが、それでも控えめである。全体的にものすごくポジティブな歌詞が多くて、吹っ切れたんだなあと思わせる。「いつでも微笑みを」や最後の「It's a wonderful world」も心の底から幸せを選択する、みたいな空気感があって良い。
ベストアルバム大ヒット後もあって、ミスチルにフォーカスされていた時期だし、アルバム内容も充実していたのでミリオンヒットをクリアして、ミスチル再評価路線が始まるきっかけになった。
■おすすめキャッチーソング
蘇生
渇いたkiss
ファスナー
優しい歌
シフクノオト
前作とファン評価を二分する作品であり、最高傑作の呼び名も高い。売上は前作を上回っているが、シングルのヒットと数、それに発売後に桜井和寿が小脳梗塞診断を受けたとかでニュースになったのもあって、シングル「Any」がチャート上昇したりと話題にもことかかなかったからだろうとも思う。
作品の最初の方にキラーソングを持ってくるスタイルは前作から確立していたのだが、今作でも2曲めの「PADDLE」が最ポップな曲だ。歳をとってから新たなスタイルを完成させたかのような社会派リリックとロックサウンドと内面性を見事に融合したシングル「掌」と生活ソングの極地「くるみ」、青春失恋ソング「花言葉」と怒涛の良曲が展開する。
中盤は玄人好みでやや大人しいが、「Any」から壮大なアンセム「タガタメ」とラブソングの「HERO」で締めくくる。バランスが良いアルバムになっている。至福の音と私服の音のダブルミーニングになっているとか。
両A面シングル「掌/くるみ」あたりからチャートでも存在感を増していて、年間シングルチャート5位に入った。女性シンガーブームも一段落していて音楽界に中心が抜けつつあったのも良かったのかもしれない。ワンダフルワールドとこのアルバムでミスチルは第二の全盛期に突入する。このアルバムは年間売上2位で、1位が宇多田のベストだと考えると、その当時の流行を寄せ付けないほど存在感があった。
これ高校生の頃のアルバムなんだよなあ。電車の中でAnyとか聴いていたっけか。ipodを使っていた記憶がある。CDをレンタルしたり買ったのをパソコンに入れてipodに転送みたいな。そういえば音楽の聴き方もだいぶ変化していて、もうラジオを録音するというのはしていなかった。ネットも使い始めて随分たっていたし、ネトゲをするようになっていた。時代が相当変わっていった頃のアルバムだ。
■おすすめキャッチーソング
PADDLE
掌
くるみ
I LOVE YOU
2004年に「sign」が年間2位、2005年に4曲A面シングル「4次元」がかなり僅差で年間3位とシングルヒットを飛ばして、完全にミスチルの天下が再来した。古臭くなりつつあった00年前後とは打って変わって、ドラマに起用されるラブソングのバンドみたいになってた。シングルヒットをまとめて突っ込んだこともあるのか、あまりファン評価が高い感じがしない。
個人的には「and I love you」はその当時久々にミスチルのラブソングで泣きそうになってた記憶があるし、アルバム全編を通してかなり聴き込んだ。確かに曲ごとに語れることは少なくて、2001年以降のミスチル節、尖っている曲はあまりないし、シングル以外に突出した曲はない。「Monster」とか「Door」みたいなお遊びが入ってたり、どうしてこんな曲出すんだ桜井、と言いたくなるマジキモチワルイ歌詞の「隔たり」など興味深いところもある。
この時期の自分に特別な思い出がないので、悲しいほど時代と照らして曲を楽しむみたいなことができない。アルバム名より「トマト」とかの愛称で呼ばれる地味アルバムだ。
■おすすめキャッチーソング
Worlds end
and I love you
靴ひも
CANDY
HOME
退屈なミスチルがどんどん進行していくなあと思わせるアルバムの代表と思う。セールス的には大成功で、2007年一番売れたアルバムなんだが、それは2006年の年間7位の「しるし」の成功がでかいだろう。年末に出たタイミングのヒットだったので、もっと前に発売していたら年間TOP3に入るぐらいの売上があった。個人的にはそこまで良曲とは思わないけれど、ドラマタイアップのラブソングだったので、その当時のミスチルのヒットの法則通り売れた。
アルバム前に発売された「フェイク」というシングルの方が好きだし、これは「掌」に通じる社会派曲なんだが、それ以外は平和な生活ソングばかりだ。このアルバムからミスチルを聴き込むみたいなことがなくなっていった。僕自身は20歳超えたころだが、この当時の流行曲は殆ど覚えていない。アイドル全盛期で、音楽界の核みたいなのは不在だったし、邦楽史として振り返るときも、あまりいい時代じゃないと言われている。ストリーミング全盛期になってようやく邦楽にもバリエーションとおもしろさが本物の流行チャートに出てきたと言われるほどに、2010年前後は面白みがない。まあアイドルの握手券ハックによってチャートが無意味になってしまっていて、それに代わる流行指標もなかったしね。
くだを巻くオッサンだった90年代後半と比べて、このあたりのミスチルは良識的なパパみたいなところがあって、実際に桜井パパの子供が小学生とかばかりの影響が出てそうだ。今聴き直しても曲名通り「あんまり覚えてないや」みたいな気持ちになる。キラーソングの「彩り」とか善人の極地みたいな空気感だしてるけど、90年代には考えられないほど毒っ気抜けて、つまんねえの一言に片付けられそうだ。「あんまり覚えてないや」自体はサビが覚えやすいので”けっこう覚えている”
■おすすめキャッチーソング
フェイク
SUPERMARKET FANTASY
ミスチル第二全盛期の終焉アルバム。今やミスチルでもっとも聴かれる曲となっている「HANABI」のヒットのおかげで売れたところがある。多分今の若い子のミスチルというのは「HANABI」を歌っているバンドだ。spotifyの日別jpopランキングでも2020年ごろまで30-50位をずっとウロウロしているぐらいには視聴されていた。とても残念だがそれから12年以上ミスチルに代表曲はでてこない。「HANABI」「エソラ」でホームラン100本打ったみたいなアルバム。
改めて聴き直してもまーったく覚えてない。ミスチル定番、序盤のキラーソング「エソラ」は覚えているけど、それ以外のアルバム曲にまったく思い入れがない。ここからラブソングのドラマタイアップからのシングルヒット、そしてアルバムヒットが通じなくなっていて、昔なら余裕でミリオン行けたであろう「HANABI」も50万枚程度の売上だった。CD自体がもうオワコンになっていたので、不景気もあいまってシングルを買う文化が終わりつつあった。絶好調だったミスチルの第2全盛期も、ラブソングヒット頼みのサイクルに陥ってそれも飽きられつつあったのがわかる。
ここから先は、桜井和寿の老いとの戦い、みたいな悲壮な音楽になっていいくので痛々しい。アルバム「BOLERO」収録の「タイムマシーンに乗って」から歌詞を引用したくなる。
"ド派手なメイクをしてたロックスターでさえ、月日が経ってみりゃジェントルメン"
■おすすめキャッチーソング
エソラ
SENSE
ファン評価は決して高くもないアルバム。売上も100万枚を割り込んで、父親世代が聴いていた大ベテランのバンドって感じになる。ここからのミスチルは老いていく音楽との取っ組み合いに見える。特に事務所というか、宣伝の仕方が年々ひどくなっていくのだけれど、曲のキャッチーさも年を経るごとに衰えていく。当時の覇権漫画ワンピース映画のタイアップ「fanfare」や全盛期に劣らないラブソングの名曲「365日」のようになんとしても若者やお茶の間に浸透させようとして、結果失敗しているというのが辛い。「HANABI」に負けないレベルのポップラブソングなのに「365日」はそこまで知られている曲ではない。「fanfare」だって軽快で良いリードソングなのは間違いない。この先のどのアルバムのリード曲より強力だったが、ほどほどのアルバムに収まってしまった。その他の楽曲も素晴らしいメロディラインに仕上がっている。広がりのあるサウンドの「擬態」「prelude」とさわやかで飽きない。
個人史として最後に聴き込んだミスチルのアルバムになる。全作品を通しても個人的には上位に位置するアルバムだ。このアルバムこそが、名作とは個人のバックグラウンドによって変わってしまうということを教えてくれたアルバムだろう。
当時の僕はリーマンショックの余波で仕事を首になって迷走していた。面接を受ける片手間で派遣バイトをするのだが、それがあの悪名高きAmazon倉庫のバイトである。大阪の堺市から出るAmazonバスに揺られて聴いていたのがこのアルバム。というか、思い入れのある一曲「ロックンロールは生きている」だ。ミスチル史上唯一(?)の桜井和寿のラップが聴ける異色の作品だが、歌詞はメッセージ性が強く、当時の僕を勇気づけるドンピシャ曲だった。
”削り取られて 切り捨てられて 安売りされたあげく価値落として
首を傾げて 異議を唱えてもこれが現実と押さえ込まれた
天国と地獄しかない時代で 地団駄踏んで縮かんだ手をねじ込んだ
ポケットの中握りこぶし 今日も痛み隠し”
この歌詞がAmazon倉庫作業員のための歌っぽくて、なんだか元気づけられてしまった。そんなに長くアルバイトはせず、IT企業社員に戻ったのだが、音楽が救いの一つになるというのは僕の人生においてほとんどなかったものだ。このラップ部分のあとにこう続く
”慌てないで ほら1、2の3の きっかけで飛ぶんだ清水の舞台
氏名住所血液型なんて 皆忘れていいんだ 君をすっとばせ”
この曲だけは今でも時折思い出しては聴いて感じ入る。特に有名なわけでもないが自分にとって大切なものだ。
■おすすめキャッチーソング
擬態
365日
ロックンロールは生きている
fanfare
Prelude
(an imitation)blood orange
ミスチルには珍しいというか、駄作と言っていい作品があるとすればこれ。ファン評価も悪く、僕自身も聴かないし、売り上げもほどほど。良くないね、とか、好みが分かれるね、ではなく悪いアルバムって感じだ。
リード曲の「Marshmallow day」だけでもっていて、シングルも弱いしアルバム曲もパッとしない。常套句のようなキラリと光るバラードもあるが、特別な曲というわけではない。数年間ずっとポップだけどキャッチーじゃない曲が増え続けてきたんだけど、まさしくキャッチーソングが全然ないアルバムだ。それまでは良いラブソングとタイアップのおかげで売れてきたけれど、中身としてはピアノアレンジばかりの生活ソングと毒にも薬にもならない歌詞ばかりになりつつあってファンも不満だったと記憶している。
この時期の僕は、クラブに通い聴く音楽のほとんどが洋楽のヒットチャートのものになっていて、個人史としては第2の音楽開拓記のようだった。子供の頃のJPOP聴きまくり少年時代から久々に音楽にのめり込んで良い体験をしていた。ミスチルの音楽性も飽きがきていただけでなく、JPOP自体が男女ともにアイドル全盛期になっていて、体験型みたいなのが売りになってきたところだった。もちろん探せば良いものもあったんだろうけど、結局のところマイナー音楽の域を出ないものばかりだったと思う。
で、ミスチルの方も第2全盛期を完全に過ぎ去って、今までのセオリーがまったく通じないところで老化にもがき苦しんでいるかのようだ。まあ、JPOP界隈自体がかなり異色たったというか、アイドル「も」売れているではなくアイドル「しか」売れてない時期だったし、その中で売上的にはミスチルはかなり検討している方だった。
それでもこのアルバムは擁護しようがない気がする。
■おすすめキャッチーソング
Marshmallow day
常套句
REFLECTION
作品以上にファンと事務所がド迷走していると思わせた作品。前作の不評がミスチルサイドに届いていたと思われる。そこで2年半ぶりの今作は気合が入っているというのがわかる。しかし彼らの気合の入りように対して、から回っている感は拭えない。それがミスチルの老化を思わせて物悲しい。
まず限定版のnakedと通常版のdripがある。限定版は曲数が23曲もあって、ハイレゾ音源USBや映像もつけて9000円である。一方のdripは14曲入の通常アルバムだ。この頃にはApple musicのストリーミングサービスが開始されていることを思うと、先見の明がない。ファンは高い金だして限定版を買うだろうけど、通常版は曲数が少ないのでなんか損した気分になるし、良曲を通常版に含めないわけがないので、nakedの方の差分9曲はイマイチなんじゃないかと疑ってしまう。商売上の都合だとしてもなんだかなあと思ってしまう。2021年の今となっては両方のバージョンをspotifyなどで聴けるわけで、あまり意味のない区分けとなった。それでも2年半で23曲入れるアルバムを作るということはやる気満々だったわけだ。
続いてファンと事務所が大騒ぎしていたのが「REM」という曲だ。ミスチルサイドもファンがピアノアレンジの大人しい曲に飽き飽きしているのは知っていて、だからこそロックなナンバーを作ろうとしたのはわかる。その証拠にダウンロード限定だがシングルカットしている。だがこの曲はどう聴いても凡曲なのだ。かつて新境地を見せた「掌」とか「フェイク」のようなキャッチーでありながらメッセージ性もあるロックソングとは違っていて、やたら桜井和寿が喉に負担をかけながら歌うだけで、決して口付さみたくなるようなものではないし、歌詞の内容も意味不明でミスチルらしさのかけらもない。しかし先行解禁したときネット上のファンは絶賛して、ようやくミスチルのロックが帰ってきたと大喜びしたんだけれど、それは長年のファンの贔屓目というか、同窓会みたいな騒ぎで、みんな白髪でほうれい線を見せて笑っているような空気は拭えない。この作品は個人的にイマイチなんだけど、そう言いづらいのは、それでも振り絞って作った良曲が含まれているからだ。
広がるさわやがなサウンドの「fantasy」に今作きってのポップス「幻聴」それにしんみりとした失恋ソングの「忘れ得ぬ人」疾走感ある「未完」など全般的にギターサウンドが中心だからこそ、長年のファンが喜んで評価している。10年ぶりぐらいのロックポップス中心なので、近年の作品では評価が高い。
このアルバムのツアー「未完」に当時の彼女と一緒に行った。ツアーはアルバム曲中心で、明らかにファン向けで、元カノはミスチル好きじゃないし、失敗したなあなんて思ってたところに桜井和寿が「ここからはミスチルをよく知らない人も聴いた曲を歌います」みたいなMCをして、やっとかあ、と喜んだのに、曲のチョイスが微妙にマイナーで、元カノが桜井和寿のお茶目さに笑ったというのがハイライト。「忘れ得ぬ人」を口ずさんでいると「その曲しょっちゅう歌ってるね」と言われたことも覚えている。
■おすすめキャッチーソング
fantasy
忘れ得ぬ人
幻聴
未完
重力と呼吸
気合の入れすぎを反省したのか、10曲入のコンパクトなアルバムを3年ぶりに出した。内容はまずまずの良作といったところ。やっぱりというか、もう曲すべてがほとんどキャッチーみたいな時代には戻れないんだろうなあと思わせる。「HOME」とか「SUPERMARKET FANTASY」「(an imitation) blood orange」に比べれば充実しているんだけれど。これだけ曲数を絞ってもキャッチーなのは3-4曲だ。もちろんそれは桜井和寿の年齢を考慮すると快挙だと思う。キャッチーな曲はそもそもあんまり作れるもんじゃない。大抵のアーティストがどれだけ頑張っても歌いたくなるメロディは作れずに悩んでいる。それを割とハイペースで作れるというのが異常な才能のなせる技なのだ。キャッチーソング以外も今作は悪くない曲が多いのでアルバム全体を通して聴きやすい。ラスト曲「皮膚呼吸」のあとは心地よい余韻が残る。
第2の「HANABI」になりそこねたシングル「himawari」はちょっとくどいがここ数年で屈指の名曲のひとつなんだけれど、新しい代表曲にはなれなかったし、もうミスチルがお茶の間を巻き込むってのが難しくなっているんだろうと思わせた。それはミスチルがCDが売れる時代のアーティストで、ストリーミングバズの時代の人ではないからだと思う。今や全曲ストリーミング解禁しているが、聴かれるのが「HANABI」だけで、新曲を出しても上位には入らない。長年のファンが毎作30万人以上もCDを買ってくれるという恵まれたバンドではあるけれど、それは決して世間で流行っているということにはならないだろう。
このアルバムのツアーも参加したけれど、一番聴きたかった今作最高曲の「day by day(愛犬クルの物語)」という犬をテーマにしたキャッチーソングは歌ってくれなかったのが残念。
■おすすめキャッチーソング
SINGLES
day by day(愛犬クルの物語)
himawari
皮膚呼吸
SOUNDTRACKS
2年ぶりに去年末に出たばかりの新作。ここでも宣伝方法のズレが発揮されていて、ミスチル運営側の老化が心配になる。先行ストリーミング解禁に「turn over?」をチョイスしたのだが、なんでこれ選ぶかなあ、というセンスだ。
アルバム全体の出来としては前作よりバランスは悪いけれど「Brand new planet」が超強力な一曲で全部チャラにするぐらいのものだ。CD売上は固定ファンが買っていてストリーミングでは全く評判にならない。ボカロっぽい曲が流行る中でミスチルのサウンドには逆風が吹いているんだろうと思う。それでも「Brand new planet」は素晴らしいポップス、リード曲として優れている。こんなに名曲を出す力がまだ残っているというのが桜井和寿の底力を教えてくれる。
全盛期には見向きもしなかった紅白歌合戦にも出場しているのだが、そこで歌ったのが「Documentary film」勘弁してくれと思った。どうせ桜井和寿のプッシュなんだけれど、大衆をつかめないものをどうして大舞台で歌ったんだと思った。「Brand new planet」を歌っていたら、きっともっとアルバムが聴かれることになったと思う。それぐらい吸引力のある曲を作りながらどうして宣伝を間違えるんだ、と呆れてしまった。「Documentary film」は悪い曲じゃあないが、「HANABI」のような巻き込みはできない曲だ。運営は気づかなかったんだろうか。時代にあっていない白ける曲なんだけれどなあ。
いずれにせよ、この時代にふさわしい曲というのはミスチルサウンドの逆みたいなところがあるので、今後もかなり辛いだろうなあと思う。米津玄師とかYOASOBIとかももうちょっとピコピコしている感じだ。ギターサウンド自体が過去のものなところがあるし、斜に構えた歌詞が受ける時代でもないし。
■おすすめキャッチーソング
Brand new planet
Birthday
デビューから今に至るまで2年に1枚のペースでアルバムを出していて、桜井和寿のサイドプロジェクトのbank bandとか含めると相当早いペースで曲作りをしている。音楽制作のバイタリティがすごい。だが全盛期のアルバムみたいな8割から全曲キャッチーで覚えやすい歌ばかりということではなくなってしまった。5年に1枚とかしか出さないようなバンドに比べれば底力というか、やっぱ曲作りのセンスは抜群なんだと思わされる。
振り返るとやはり自分にとって青春ど真ん中で聴いてきた曲がたくさんある。どれだけ年老いても思春期の頃のインパクトは永遠に残るんだろうなあ。思い出と記憶というのはいかんともしがたいものだ。