連載期間が1997年~2001年ということもあって描写に時代を感じさせる。スマホはないし、携帯より家の電話がメインでやり取りしているし、就職難の時代背景が程よい不安定さを付け加えている。
大学生の明夫と芳乃は共に法学部の大学生カップル。弁護士を目指して手堅く人生を進める芳乃に対して、自堕落な明夫。四年生では自堕落な明夫が芳乃との関係の中で徐々に就職活動を開始し、軌道に乗るまでを描いている。おそらくここで完結として描いていたのだと思う。とてもきれいにまとまっている。
ちょうど現代版の夏目漱石の三四郎みたいな小説だな、と思った。
続編の「五年生」では一目惚れをテーマに、様々な男女関係を描く。
実は単位が足りなくて卒業ができなくなった明夫と東京で弁護士事務所への就職が決まった芳乃。遠距離恋愛が始まりお互いにギクシャクし始め、大学に残った明夫と後輩たちの泥沼恋愛模様や、弁護士事務所の取引相手と(精神的な)浮気を始める芳乃。
お互い怒りをぶつけて、やりきれない気持ちを出しあい、物語がロールする。
読む前に芳乃が浮気するということをネットで知ってしまった僕ではあるが、肉体関係がないので拍子抜けしてしまった。恋心があるというだけで、後は何回かお茶しているというだけの関係って浮気と言えるのだろうかと思った。
ダメダメな明夫は現代版人間失格の大庭葉蔵っぽくもあり、何だかんだ彼の魅力で物語が成立している。雰囲気を楽しむ青春マンガだよなって思う。
なんでこんなおっさんに一目惚れしちゃうん芳乃?
とか、もうちょい何かあるやろ明夫みたいに読みながら思う。
1998ならこういうやついるなあと思える反面、「フリーターでもやっていけるっしょ」ていう考えは2020年には地雷というか、絶滅危惧種という風に思える。今は何が何でも正社員になりたい大学生のが多そうだ。
漫画だけどリアルに思わせる技量は素晴らしい。げんしけんとかよりこの手の短編を描いてほしい漫画家だと思った。