フロイドの狂気日記

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書評「あんぽん」孫正義と家族の知られざる歴史

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あんぽん   孫正義伝 (小学館文庫)

あんぽん 孫正義伝 (小学館文庫)

 

 

平成から令和にかけての偉人として残る人物というのは、この人をおいてないだろう。実質的に日本最高峰の実業家の一人だろうし、ワールドワイドでの拡大という意味ではユニクロ三菱財閥もかなわないほどではないか。生きている日本人の中では、孫正義以上の経営手腕を持った人はいなさそうだ。アンチも多いが。

 

ジェフ・ベゾスイーロン・マスクスティーブ・ジョブズなどの伝記や評伝を読んできた僕は、孫正義伝の中で一番有名だろうこの本を買った。生きることにモチベーションが湧かなくなったら偉人の伝記を読むのだ。だが率直に言うと、ちょっと肩透かしを食らった。というのも、孫正義のエピソードが読みたかったのに、孫一家の歴史という趣が強く、正義本人より父親の三憲や玉子にかなりのページが割かれている。むしろこの本の主人公は父親と言ってもいいほどだ。

 

孫正義より上の親祖父母兄弟達が過剰なほど個性的なのに対して、むしろ孫正義はかなりお行儀がよくて、シンプルに秀才として育ったんだなあと感心する。もちろん差別だったり、病気だったりたくさんの危機はあったのだろうし本でも指摘されているが、父親の個性やとんでもない人生に比べれば、スパイスが足りない。

 

孫正義は昔から勉強熱心で未来志向な青年だったのだ。僕としては孫氏の熱烈なエピソードを読みたかったんだけど、案外曲がったところが少なくて、小学生の頃から今まで善人みたいなところがある。それが親達との対比で人生がすこぶる平たんに思わせる。

 

孫正義の伝説に注釈が入る。シャープに自動翻訳機を1億で売ったという話も、シャープには父・三憲と一緒に行ったり、アメリカに高校から行けたのはやはり親のお金あってのことだとか。小学生の頃は確かに極貧家庭だったが、中学校になるころには豪邸を建てるぐらいの金持ちになっていたことなど、詳細に書かれる。

 

いずれにせよ、孫正義の立志伝を期待して読むとちょっと落胆するかもしれない。孫家の包括的な家族の歴史の本だし、発行が2014年とあって少し古い。今の超肥大化したソフトバンクを作者がどうするかは気になる。

 

著者の佐野眞一氏は、橋下徹元大阪知事のルポを連載する際に、大阪の部落を強調しすぎて批判が集まり事実上の引退に追いやられた人物でもある。それに触れた巻末の佐野眞一氏の弟子によって書かれたコメントが実は一番読み応えがあったというか、ハシシタという批判を食らったルポとあんぽんの作者が同一人物だとは思わなくて驚いた。

 

世間に流布されている孫正義伝説の補足説明は面白い。大半は韓国から来る親世代の記述と孫正義とのつながりなので、そういう歴史が見たければ本書を手に取るといいかもしれない。だが僕が期待した、生きるモチベーションを湧かせる作品ではなかったよいうに思う。

 

あんぽん 孫正義伝

あんぽん 孫正義伝