フロイドの狂気日記

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書評「Airbnb Story」ゲイツもジョブズもいない世界企業

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Airbnb

日本ではエアビーと呼ばれたりする、シェアルームで稼いぐを簡単に可能とするwebとスマホアプリ。利用者から見ればホテルよりも安い部屋を探せる。言うなれば超巨大仲介業者である。僕もスコットランドで利用した。

 

全部読んでみてなのだが、読後感がスッキリしない。まるで国語の教科書に書かれた捻りのない正直者の昔話、桃太郎とかシンデレラを読まされた気分になった。その理由は創業者がめちゃくちゃ若く、そしてまともでいいヤツだからだろう。シリコンバレーなどから世界企業を創った創業者とは、ゲイツのように天才的な人であったり、ジョブズやベゾスみたいに苛烈な統率者が必要だと思っている。

 

エアビーの創業者は3人いるが、そのどれもが性格面では普通に思える。美大生2人とプログラマ1人のトリオだ。この三頭政治は今でも変わらない。

 

創業伝説として最初に語られるのは、家賃の支払いに窮した美大出身の創業者2人は、空いている部屋にマットレスを3つひいて貸し出そうと考えた。デザイン博が地元で行われホテルが満杯になるタイミングであった。そして実際に募集をかけて泊めた、というのもである。

 

事実ではその数年前に、創業者のチェスキーとゲビアの2人がそれぞれ就職した後、チェスキーはロスに、ゲビアがサンフランシスコで働いていた頃、ゲビアのルームメイトが突然出ていき、部屋に空きがでた。家賃の値上げも要求され窮したゲビアがチェスキーにサンフランシスコに来るように誘ったのだが、その時からすでにどのように小遣い稼ぎをするかを考えていたそうである。デザイン博で沢山のデザイナーがやってくることはわかっていたし、ホテルの値段が釣り上がることも予測できたので、余った部屋で民泊をやることにした、というものである。

 

実際にボストンのデザイナー、ユタに住む5人の子供の父親、インドのムンバイから来た工業デザイナーなどから予約が入った。インドのデザイナーのインタビューはこの本でページが割かれている。

 

このエピソードのページを読んでいると、胸に引っかかるものが出てくる。確かにあまり裕福な暮らしではないのだが、チェスキーの母親は就職祝いにホンダのシビックとスーツをプレゼントするエピソードなんかがでてくる。シビックが中古か新車かはわからないが、まあ貧乏人ではないだろう。そしてチェスキーは卒業総代を務めるほどの優等生だったということ。書かれたエピソードはどれも人柄がとても良いことを示しているし、なんだか成り上がりの物語というより、すごく優秀でいいヤツで家庭環境も恵まれたデザイナーがユニコーン企業まで手にする物語なのだ。

 

さらに創業者の3人目である、ゲビアの以前のルームメイトのブレイチャージクというエンジニアが出てくるが、高校を卒業する頃にはフリーランスとして仕事を受けて100万ドルを稼いだほどの実力者である。話がうますぎる。が、これは事実のようだ。

 

仲良しのデザイナーの1人は学校をトップで卒業し、もう1人のデザイナーの知り合いに凄腕のエンジニアである。実際にエアビーの最初期を支えたのはこのブレイチャージクだろう。エアビーのサイトをコーディングしたのもこのエンジニアだ。

 

だがこの本は一貫してチェスキーを主人公として描いている。実際に3人のうちのリーダーはチェスキーとなっており、彼の底なしの好奇心と行動力がエアビーを成功に導いたと言っても良い。資金繰りに困って、当時の大統領候補のオバマをモチーフにしたオバマ・オーというシリアルを2ドルで売り出したエピソードは笑えるけど、含蓄がある。スーパーに行って1ドルのシリアルのラベルをオバマとマケイン仕様にして、売り出して会社を生き延びさせるという知恵と行動力は、だからこそエアビーをトップ企業にさせたのだ。

 

このシリアルを売り出して3万ドルも儲けたエピソードは後に、シリコンバレーの有名投資家Yコンビネーターのポール・グレアムがエアビーに投資を決める理由となったわけだ。「シリアルを40ドルで売りつけられる男なら、他人の部屋で寝られるようにみんなを説得させられるだろ」ということだ。(オバマ・オーの限定版は40ドルだった)

 

ポール・グレアムシリコンバレーで知らぬものない投資家だし、ペイパルを立ち上げて成功させた人物でもあるが、彼に認められてからはトントン拍子だ。僕もこの本で知ったがYコンビネーターは会社に5000ドルの投資を、創業者1人につき5000ドルを与えてアドバイスと人脈をフル活用できるというのだ。たったの200万円程度の投資で数%の株をYコンビネーターが得る。エアビーの株は何千倍の価値にもなっているだろう。

 

ポール・グレアムが別の投資家にエアビーのことを紹介した投資家は億単位の投資を行って、その後はあっという間にユニコーンである。ここに来るまでに本の1章目だから困る。8章ある本のうちの1章目でほぼ成功者になっているし、本当にその後は巨大化する一方。なので残りはエアビーのトラブルと対応などが描かれる。エアビーの悪意を持った客に対する話だとか、普通の宿泊客を装ってクラブパーティーを開いたユーザー、ホテル業界との確執とか、オバマがエアビーを演説で紹介するエピソードだとかだ。

 

起業のヒントにはなるけど、読み物として面白いか、と言われたら微妙だ。もう投資家は彼らにめちゃくちゃ金を渡しているのだから、その金を使えばたいていのトラブルは解決可能だしね。

 

実際のところエアビーはすごく使いやすくて、「すぐに予約」システムを使えば、ホテルと同じように直ぐに予約できて便利だ。僕も次ヨーロッパに行くときはエアビーを使うだろう。なんせ安い。

 

だけど「すぐに予約」システムがないと、本当にめんどい。なかなか返事をよこさないホストやこちらがアジア人の男だとわかると、返事をしてこなくなるホストとかもいたからね。その点「すぐに予約」システムはホストが誰でもOKを明白にしているだけに利用しやすい。

 

そんなわけで実にアメリカ的な、システマチックな成功譚としてこの物語があるように思えた。だけどちょくちょく引用される名言は面白いものが多い。

 

「やつらは傭兵、こちらは伝道師、だが最後に勝つのは伝道師だ。」

「一番熱心なやつが誰よりも成功する」

悲観主義者はだいたい正しい、だが世界を変えるのは楽観主義者だ」

 

とかまあそんな感じだ。

 

Airbnb Story

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