フロイドの狂気日記

時は流れ、曲も終わった。もっと何か言えたのに。

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「サルたちの狂宴」はアメリカに行きたがるエンジニアが必ず読むべき本だ

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こんな国で働いていられるか!俺はアメリカに行くぞ!
 
と思った方はおられるか?
私のことだ。
 
この本はウォール街で働いていた男が、シリコンバレーの中堅IT企業に入り
その後起業した後、事業を売却してフェイスブックで働き、辞めるまでの物語だ。
 
物理学の修士号を取りウォール街クオンツとして働いていたが
 
その中堅IT企業のサラリーマンとしての生活や、そこでの仕事にうんざりして辞めて
その会社にいた友人たちを誘って3人で起業し売却するまでが上巻
 
著者が陰謀を駆使して売却先のTwitterではなく売却先の候補だったFBへと就職を決めた後FBの広告ビジネスで奮闘するのが下巻となっている。
 
これが凄まじく面白い。
 
何が面白いかって、僕が想像していたよりも100倍はドロドロしているシリコンバレーの生情報が書かれているのだ。
 
まずウォール街の働く風景のようなものも書かれている。
これはむしろ映画なんかで仕入れた知識と変わらないようなところがあり意外性はなかった。
 
その後、中堅IT企業に移ってからも僕の印象に残るようなことはないが辞めた後の守秘義務に関する法律により、著者たちは訴訟を食らうことになる。
要は機密を流用して起業したとの訴えなのだが、この展開はアメリカらしいといえる。
 
起業編ではYコンビネーターという有名投資会社を通して審査され、見事に投資を受けることに成功する。
アメリカでは投資が活発だというが、この章を見ればいかに投資ラウンドが効率化されているか。日本ではありえないほど明確なレールがひかれていて熾烈な競争があるかがわかるだろう。
 
いや、本当に想像とは違った。日本の受験戦争みたくユニコーンを見分けるために徹底してテストするのだ。
主に面談とプレゼンではあるが、そこをうまくやることで投資を受けることができる。
もちろんたくさんのライバルと共に審査される。
 
そこにいたるまでの過程もおもしろいし、同時進行する訴訟についてもおもしろい。
アメリカ人ってドライかと思ったら、かなり執念深い人たちもいる。
 
その次は投資を受けた後の事業拡大の苦労話である。
それらもベンチャー立ち上げから売却までの一通りの流れがわかるし
その中の苦労話も盛りだくさんで起業したい人の参考になる。
 
全編を通して著者の彼女や女性関係の話も差し込まれており、それはそれで楽しい。
やっぱアメリカ人って日本人とは違っているなあと思わされる。
 
FacebookTwitterを天秤にかけ売却を持ち掛けるのも興味深い
著者はFBに行きたがり、売却自体はTwitterに行う。
著者以外の創業者二人はTwitterに行き、著者はうまく立ち回って
希望通りのFBで働くことになる。
 
下巻を読めばわかるが、著者はFBに行ったことをおそらく後悔している。
FBで出世している人々についてもかなり悪態をついていて
(というか著者は会ってきた人のほとんどをディスっており褒めつくしているのは
Yコンビネーターのポールグレアムについてぐらいだ)
 
創業仲間でさえ欠点をあげつらっていて性格がよろしくないなあと思わせるが
実直なタイプなのだろう。
 
下巻ではFBの内情やストックオプションを含めた稼ぎについても赤裸々に書かれている。
ビジネスだけでなく人間関係やそこでの立ち回りが焦点になり、天下のFacebookといえど
人間集団であることをうかがわせる。
 
最後は彼は職を辞して、個人の夢を追いかけるようになりIT業界には永遠に戻りたくないとも書く。
上下巻は長いが、それだけにラストの著者の無念さや後悔を知ることができる。
 
とくに彼がFBにいる間、創業仲間2人はTwitterで十分な恩恵と金銭的な報酬を受けたが、
著者はFBからもらえたものは金銭的には二人の仲間とはほど遠いという記述である。
結論から言えばそこが最も著者が後悔したところなのだろう。
FBに行くときはやる気満々だったが去る時は完全に打ちのめされたのだ。
 
最後まで読んだ感想を言えば、著者はとても人柄が良いとは思えないので
その過程にいたるまでの苦労や仕打ちは自業自得ではないかと思った。
ことあるごとに人の悪いところを見つけては書くので段々辟易するのだ。
 
それに比べて創業者の別の2人は素朴な感じがして応援したくなるが
著者は鼻持ちならない上から目線の男という具合で、同情があまりできない。
そのためこの本は立ち振る舞いの反面教師としての価値は大いにあるといえる。
 
最終章付近の著者のFBでの貢献は少々眉唾かなと思った。
本人談なので盛った報告をしている気がする。
訳者のあとがきに書かれているが、著者がFBで関わったプロジェクトのソフトウェアは
役割を終えたとして終了している。この本が書かれていた2016年度より後の話だ。
 
打ちのめされたとは言ってもキャリアからすると著者も十分に殿上人なので、あまり不遇というわけではない。
アメリカでのキャリアと栄光、挫折を詳しく知ることができる本になっている。
 
この本を読んでもしり込みしないひとはアメリカに行くべきだろう。
あまりにシビアな世界なので僕はアメリカへの憧憬が覚めてしまった。
著者は生粋のアメリカ人であり、それでもこういう苦労をするならば
ビザや言語のハンディを抱えた日本人はさらに苦悩することになるだろう。
 
ともかくエンジニアなら読んでほしい作品である。
 
 

 

サルたちの狂宴 (上) シリコンバレー修業篇 (早川書房)

サルたちの狂宴 (上) シリコンバレー修業篇 (早川書房)

 
サルたちの狂宴 (下) フェイスブック乱闘篇 (早川書房)

サルたちの狂宴 (下) フェイスブック乱闘篇 (早川書房)