フロイドの狂気日記

時は流れ、曲も終わった。もっと何か言えたのに。

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ダーウィンが言っていない6つのセリフ

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ダーウィンが言っていないセリフ1

It is not the strongest of the species that survives, nor the most intelligent that survives. It is the one that is most adaptable to change.

最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一、生き残るのは変化できる者である。

 

ダーウィンの書物からではなく経営学のテキストが元ネタである。具体的に一番古い例はルイジアナ州立大学マーケティングの教授であるレオン C. メギンソンの著作「Lessons from Europe for American Busines(1963)」。日本でも幅広く言及されていて、胡散臭い経営者たちが好んで使うのはやはり経営学の教科書が元ネタだからだろうか。マーケティングの教授としてメギンソンは有名らしく、このダーウィンの誤用を他の人たちが引用しまくったせいで、本家にないセリフが有名になった模様。その間違った引用文は以下。

According to Darwin’s Origin of Species, it is not the most intellectual of the species that survives; it is not the strongest that survives; but the species that survives is the one that is able best to adapt and adjust to the changing environment in which it finds itself.

 

これ以降もダーウィンの名セリフとして引用する人たちが世界中で後を絶たない。

 

ダーウィンが言っていないセリフ2

In the struggle for survival, the fittest win out at the expense of their rivals because they succeed in adapting themselves best to their environment.

生存競争では最も環境に適用したものがライバルに勝つ

 

元ネタは1960 年代の教科書「Civilization past and present」でダーウィンの見解の議論として生まれ、Ritchie R. Ward (1971) の The Living Clocks で引用され広まったそうだ。セリフ1と似ている要素がある。種の起源を読むとこういう見解を出したくなるものなのだろうか?

 

ダーウィンが言っていないセリフ3

In the long history of humankind (and animal kind, too) those who learned to collaborate and improvise most effectively have prevailed.

人類だけでなく他の動物たちは長い歴史の中で、共同作業と即時対応を効率的に学んだ人々が勝利した。

 

これの元ネタが何かは今のところ発見されていないそうだ。ダーウィンでないことは間違いないとされている。セリフ1-3は何というか企業サイトの中で言及されていて罪深いというか、進化論がいかに社会に影響を与えたかの証拠になっている。勝手にダーウィンを都合よく解釈して、それが現代社会にフィットしたんだろうと思う。この誤用はユヴァル・ノア・ハラリの「サピエンス全史」の主張に似ているように見える。

 

ダーウィンが言っていないセリフ4

The universe we observe has precisely the properties we should expect if there is, at bottom, no design, no purpose, no evil, no good, nothing but blind, pitiless indifference.

我々が観察する宇宙は、意図も目的も善悪もなく、暗闇以外何もない無慈悲な無関心であるならば、我々の期待した通りだ。

 

これはダーウィンでなく「利己的な遺伝子」のリチャード・ドーキンス。遺伝子繋がりでしかないんだけど、ダーウィンのほうがキャッチーで有名だからか?

 

ダーウィンが言っていないセリフ5

I was a young man with uninformed ideas. I threw out queries, suggestions, wondering all the time over everything; and to my astonishment the ideas took like wildfire. People made a religion of them.

私は無知な若者だった。私は何もかも疑って提案や質問をし、それは予想外に山火事のようになった。人々は私の考えを宗教にした。

 

ダーウィンが死に際にキリスト教に回帰したという記事の中で語られている。記事を書いたのはダーウィンの死に際にそばにいたと主張するホープ夫人だが、ダーウィンの子どもたちが否定、ホープ夫人はいまわの際におらず捏造とされている。ダーウィンの言説はキリスト教を明確に否定するものだから論争になった。神が人を作ったのではなく猿からの進化ってものだからね。そんなダーウィンも最後はキリスト教に回帰したんだ!という要求は欧米社会にありそうだ。ただ僕はこの文章を読んでキリスト教に回帰したという解釈がどうしてもできなかった。自分の考えは科学でなく宗教のようになってしまったという意味であるならわかる。セリフ1-3みたいに経営学の教義みたいな解釈をされているしね。遺伝子には意思などなく勝手に変化(ミスコピー)するんだけど、ダーウィンの偽セリフ引用の中では「自分の意思で変化せよ!」という号令にすり替わっているように見える。何にせよダーウィン自身が宗教回帰したという根拠を欲しがる集団はいるだろうな、と思った。

 

ダーウィンが言っていないセリフ6

The fact of evolution is the backbone of biology, and biology is thus in the peculiar position of being a science founded on an improved theory, is it then a science or faith?

進化の真実は生物学のバックボーンであり、生物学は改良された理論によって科学の中で奇妙な地位を得た。それは科学なのか、信仰なのか?

 

ダーウィンの著書「Origin Of The Species」1872年版にL. H. マシューズが序文として書いた文章であって、ダーウィンが書いたものではない。

 

■まとめ

6つの英文をgoogle検索するとファクトではないと指摘するサイトが出てくるが、一方でCharles Darwin Quote(ダーウィンの名言)みたいなサイトのリストでも引用されていたりする。

 

日本ではセリフ1は有名だ。進化論はそもそも分類による進化の痕跡を説明したもので、そこに「人間の意思」の介在はない。科学全般に言えることだけれど、科学者は現象の説明をするが、人間の選択は含まれない。権力者が1+1=2と言ったから式が成立するわけではない。ところがダーウィンの進化論の引用にいたっては、「変化できるものが勝つ」というように意思の介在を示唆するものが多い。ダーウィンはあくまで生き残った生物の進化の痕跡を見つけただけで、進化した生物たちは何か意識的に進化したわけではない。

 

御用の傾向として信仰との対比みたいなのがある。進化論がキリスト教と真っ向から反対するものなので、欧米の信仰主義に反応するらしい。これは日本ではあまりない引用である。

 

何にせよ「環境への適用が勝利の鍵」「変化するものが勝つ」というような言説にダーウィンを引用している人は、デマを調べる力がないと白状しているようなものだ。あるいは引用によって騙そうとしている詐欺師かもしれない。ろくなもんじゃないことは確かだ。

 

※上記の検証はケンブリッジ大学がソースであり確認してみるのもよい

Six things Darwin never said – and one he did | Darwin Correspondence Project

FACT CHECK: Did Charles Darwin Say This Quote About Biology? | Check Your Fact