フロイドの狂気日記

時は流れ、曲も終わった。もっと何か言えたのに。

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キレるじいさん

海水浴で日に焼けた肌がめくれ上がり、日焼けの痛みを感じる。とにかく荒れた肌に塩を与え続けたいと思って、源泉かけながしで岩塩を含む銭湯に向かった。シャワーで体を洗うとひたすら皮がアカのようにとれていく。海水浴は失敗だったかなと思った。日焼けの後は痛み、肌がキレイになったようには見えない。それどころかひどくなったようにさえ感じる。

 

長湯しすぎると家に帰ってからの時間がなくなるのでほどほどで切り上げ、着替えに行く。その時、客のじいさんが店員に怒鳴りだした。とにかくブチ切れるているが理由が全然わからない。凄まじい形相だ。キレている人を見るのは久々だな、と思って体を拭いていた。そのうち、別の店員がやってきてまたその人にもキレる。何が理由なのかさっぱりわからないまま怒鳴り散らす。

 

別の客が警察呼ぼうかとつぶやいたらしい。その爺さんは今度はその客に何が「何が警察呼ぶだ、ゴラァ、お前!」などという。周りの客からしても、なんでそれにキレるところがあるんだと思っただろう。店員さんも退店願いますか、と言い出した。それでも怒鳴る爺さん。

 

一人の色黒の男性が爺さんにブチギレた。「お前迷惑やねん、その兄ちゃん何も言うとらんやろうが、ゴラァ」と。爺さんは少しひるんだように見えた。勇敢だなあ、と僕は思った。爺さんはどう若く見積もっても60代後半、僕の父と比べても年老いて見えるので70歳超えていてもおかしくはない。僕より20cmは低い身長、たるんだ皮膚に、やや曲がった背、白髪頭、何本か抜けた歯。本気で殴ったら死んでしまいそうな弱々しい体だった。声だけは大きいが。

 

僕は面倒だな、声を聞いているだけでイライラするな、と思ってさっさとフロアに出た。ああいう時、店員さんをかばってやり返せる男は立派だなあと思った。牛乳を飲んで涼んでいると、さっき怒鳴り返した男がやってきた。中学生の頃の同級生だった。

 

向こうが僕に気づいて、久しぶりじゃないか、と声をかけられた。隣には男の子がいた。彼の息子だった。聞くともう10歳になるらしい、計算すると20代前半には子持ちになっていたということか。時間が経つのは早いものだ。10年以上ぶりぐらいの再開だというのに、僕はほとんど話さずに、そそくさと外に出た。今考えても随分と愛想がなかったように思う。「それじゃあ、またな」と言って外に出た。

 

なんとなく気まずかったんだと思う。子持ちで守るものがある同い年の男が迷惑爺さんと戦おうとする。大阪人らしくイライラしてブチギレただけかもしれないが。とにかく僕は巻き込まれまいとして、せっかくのリラックスする時間を台無しにしただけだった。

 

外に出てバイクにまたがりふと思い出したようにスマホを取り出した。僕にしてあげられることがあるとすれば、と思い110番通報する。警察に連絡するのは初めてではない。おまわりさんはすでに他の方からも通報が来ていますよ、と返事をした。今向かっていますと。その後は警察官に言われて退店して出禁になるといったところだろう。僕はバイクに乗って家に帰った。

 

あの弱々しいじいさんは何に怒っていたのだろうか。体さえままならなくなった高齢者の理不尽な怒りだろうか。くわばら、くわばら。念仏のように唱えながら、風が心地よい大通りを走り抜けていった。