フロイドの狂気日記

時は流れ、曲も終わった。もっと何か言えたのに。

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優しい人たち

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今日、大阪も捨てたもんじゃないなということがあった。

 

片道1時間半もかけて通勤し始めているので、電車ではとにかく座りたい。あいにく梅田から席が空いていなかったので、死んだ目をして立っていた。すると僕の右斜前で座っていた明らかな韓流ファッションの黒マスクの男性が、目の前の比較的若そうな女性に席をゆずったのである。無言であったことを考えると韓国人だと思う。相手はいくらなんでも30代前半よりは若そうな感じだし、おまけに荷物はその韓国人の方が多いし、僕の横に立たれると荷物が邪魔だから座ってろよ、ぐらいのことは思った。譲られた女性は年寄では断じてないし、足腰が悪そうにも、体調を崩してそうにも見えないし、荷物は小さなかばん一つだった。座った後、女性の指がスマホを滑りまくっていたので、きっと、イケメン韓流男子に席を譲られたとか友達にラインしてたか、twitterしてたのだろうね。

 

乗り換えの電車を待っていると、隣の列の先頭のおばあさんが、床へと座り込んだ。僕は後ろ姿を見て酔っ払いの爺さんだろ、と思って放っておいた。後からばあさんと知ったのだが。そうすると僕の目の前に立っていた若い女性がどこかに消えた。多分めんどうになると思ったんだろう。僕は先頭で待つことにした、ばあさんは意識はありそうだし、ただ単に座り込んでいるだけだろ、と思っていた。

 

電車を待つ途中で、大柄な外国人らしき女性がおばあさんに手を貸そうとした。おばあさんは、大丈夫といいながら手を振ったので女性は元の場所に戻った。次に白髪のじいさんが僕の前を通り過ぎる時、おばあさんに声をかけた。大丈夫かいな、と言うおじいさんに、大丈夫、大丈夫、と返すおばあさん。

 

ようやく電車が来て、もう座りとうて仕方ない僕が座席を確保すると、ドアの前で2人の女性がおばあさんを両脇に抱えて電車に乗せようとしていた。そうして優先座席におばあさんを座らせた。途中でおばあさんは下車した。その時も別の人達がおばあさんを手伝っていた。

 

おばあさんは、大丈夫、ありがとう、ありがとうと繰り返しながら、一人で歩き出した。手伝っていた人たちも車両に戻った。僕がおばあさんを目で追っていると、前のめりになって倒れた。地面に頭を打ったときの、ゴツン、という音が聞こえてきて、ヒエッと車両内で声を上げて、注目を浴びてしまった。恥ずかしい。外の人たちが数人かけよって、電車が発車するころには駅員もそばにいた。多分大丈夫だろうと思う。おばあさんは何やら手を振っていたから大丈夫だと思う。

 

電車にまつわるエピソードは、何だか冷たいことや、犯罪絡みか自殺ばかりだと感じていた。いやしかし、意外にも沢山の人が手助けをする精神を持っていたのだ。そうして、僕のように往復3時間も通勤していると、優しさを出すタイミングもわからず、誰かが手助けしているのを観察するぐらいしか、なくなってしまうのである。

 

いや違うな。そうじゃない。

 

なんというか人助けのタイミングが全然わからない。まったくわからない。たまにするときもあるんだけど、上手く切り出すタイミングがわからない。

 

そうして人助けをしそこねた僕ができることといえば、そうやって人々が優しかったことを、荒んだ世の中でもそれなりに情がある人々のことを、こうやって書き記すことだけだ。