最近立て続けに古い映画を見ている。今日見たのは1942年に上映された名作「カサブランカ」を見た。「市民ケーン」「地上より永遠に」が個人的にクエスチョンな映画だったので、似たような年代のこれも期待しないで視聴した。名作だった。
この映画は何もかもがいい。ストーリーもハッピーエンドで起承転結ははっきりとしているし、主要なキャラクターはどれもクールで素敵、演出は控えめ、音もうるさくないし、上映時間が1時間42分というのもコンパクトで良い。主演女優のイングリッド・バーグマンはこれぞ美女という美女だ。そして吹き替えの声も全員見事にあっている。率直に言って欠点が見当たらない。オープニングの会社ロゴが1分も静止しているところぐらいだ。
ナチスドイツによってパリが占拠され、たくさんのヨーロッパ人がモロッコのカサブランカ経由でポルトガルのリスボンに行き、アメリカへと渡りたがる時代。主人公のリックもパリからカサブランカへ逃れて酒場を経営している。当時のカサブランカはフランス領であり、ナチスドイツの非占領地域だったのでドイツ軍も無茶ができない。リックは警察署長のルノーと仲良くやって日々を過ごしているが、パリにいた頃の恋人がやってきて、リックの知らない夫とアメリカに逃れるため出国チケットを手配してくれるように頼むがリックは葛藤する。
こんな筋書きで、カサブランカ内でのドイツ将校たちとの切った張ったや、フランス人たちの愛国心の発露、賭けに勝って何とか警察署長から出国チケットを買おうとするヨーロッパ人たちの姿、酒場の気のいいスタッフたちと人間模様が描かれる。
特に素晴らしいのは酒場でドイツ国歌?を歌うドイツ軍人たちに対抗して、ラ・マルセイエーズを大声で歌わせるイルザの夫、酒場のフランス人たちが歌い出し、ドイツ軍人たちを沈黙させてしまう演出はなんとも言えぬ愛国心の表現として印象深い。
(リックが賄賂代わりに仕組んだ)イカサマルーレットで儲けるルノーは、出国チケットを発行する権利もあるのでずる賢く金を稼ぐが、どこか憎めないキャラクターで、最後の最後で主人公と運命を共にする。バッドエンドかな?と思わせてきっちり最後は素敵なエンドにしたのもいい。ハンフリー・ボガート演じるリックはクールで最後まで男気を見せる。古典的名作というのもうなづける内容だ。
ナチスドイツが出てくる映画にしては血生臭さがほとんどないというのも魅力的なのだ。1942年のハリウッドではもしかしたらナチスの残虐性がまだ伝わっていなかったのかもしれないが、映画内のドイツ人将校たちがそれなりに紳士的だ。レジスタンスの重要人物に対しても、ルール通りの手続きで対応した。それがどれほど史実なのかはわからないが、そういった戦時中映画ではあるが暴力が支配するだけの映画ではないというのが新鮮に感じられた。
40-50年代のモノクロ映画は現代の僕には合わないのかなあとガッカリしていた矢先にカサブランカを視聴したおかげで、他の作品も見てみないと評価できないな、と思うことができた。
「君の瞳に乾杯」という視聴前から知っていた名フレーズがめっちゃ繰り返されるのは笑えたけれど、純愛で誠実で完成されたシナリオの名作であることは間違いない。
この名作に乾杯。
9.5点 / 10点