忘れつつあったこの業界の掟を思い出してきた。
プログラマ業界の中では大雑把に2つの世界がある。
一つは、大学で専門の講義を受けdegreeを取得した上で、IT技術そのもので儲けているテック企業や大手企業のIT部門に入る人々、あるいはオープンソフトウェア開発や本当の意味でのベンチャーを立ち上げて一攫千金を狙う人たち。わかりやすく天上人と呼ぶ。
もう片方は、BtoCで儲けている企業に依頼されて社内ソフトなどを開発する有象無象の中小零細企業だ。無限に広がる平凡な下層社会だ。僕はそこの末端で仕事をしている。天上人がテクノロジーに自信をもって正当な働き方をするプログラマ世界だとしたら、下層階級のプログラマは摩耗していく乾電池だ。クライアントはITの素人で要望に振り回され続ける。理想的な開発サイクルなど回せるはずもない。
「本当の」テックベンチャーがハードワークの末のIPOなどで巨額の富を得ようと頑張るのに対して、下層にいるPGはハードワークをしても平均より少し高い程度の給料しか得られない。
下層世界でタフに生きるには理解すべきことがいくつかあって忘れてはならない。忘れていたので言語化する。フリーランスプログラマ向けである。
■あなたの技術は金を生んでいない
第一にBtoCで儲けている企業がある。インフラ、保険、不動産、飲食から学校にいたるまで、稼いでいる会社から依頼を受けるのが仕事になる。我々は間接部門のような扱いであることが多く、技術そのものが金を生み出すわけではない。それが故にプログラマの立場は軽い。残業が多くクライアントの言いなりになるのは金を稼げないからだ。金を稼いでいる人たちが間接部門である我々を顎で使っている形にならざるを得ない。この構造がひっくり返る可能性はなく、稼いでる連中の指示・依頼が絶対的な存在にだ。これは摂理である。理解せねばならない。
■夢を見るな
個人が企業の信頼を勝ち取る意味はほとんどない。フリーランスのあなたが技術に造詣が深く、仕事が早いなら継続的に仕事を与えられる。もし同じ仕事と環境であり続けたいならそうすればいいが、その先にはなにもない。技術革新のキャッチアップは自分でせねばならず誰かが教えてくれるわけでもない。信頼に対して対価はほとんどない。契約する金額も相場がある程度決まっているのでそれを大幅に超えることもない。高い金額を支払っているのは大手企業のブランドに支払っているケースだ。どれだけ批判されても上場企業のエンジニアにはいい値がつくが、それは給料でも実力評価でもない。安心料・ブランド料だ。
いやいやそんなことはない。たくさんの企業から信頼を得れば、法人化して零細SIerのようなことができるかもしれない、というひともいるかもしれない。一人では複数社からの依頼を捌けないので、人を雇う必要がある。だが今やその人が雇えないのだ。できるプログラマにとって単価の高い仕事を得るのはたやすく、会社に所属する必要はない。正社員に拘る人は、何もできたての零細に入る必要はなく、フリーランスに限界を感じたjqueryおじさんばかりがあなたの会社の門戸を叩く。あなたほどの技術もない人々を指揮するのは至難の技であり、疲弊するのが目に見えている。せっかく築いた信頼も雇った社員たちがぶち壊すこともままある。この業界ほど人との信頼が希薄な仕事もないだろうと思う。だから一人分以上の夢を見てはならない。
■余計なことをしゃべってはいけない
仕事が早ければ早いほどよい。人格だって良いほうが好ましい。クライアントの要望に常に振り回されている業界だと、とにかく仕事の早さが必要だ。どれだけ人格が素晴らしくとも技術的にポンコツならすぐに切られる。程々の能力があれば人格も評価されるかもだが、てんてこ舞いの鉄火場に癒やしはいらんのだ。つまり人格を見せる必要はなく、最低限の会話で仕事をこなしていれば継続契約は簡単なものだ。自分のプライバシーや政治談義や趣味の話はやめておいたほうがいい。誰の地雷を踏むかもわからんのだから。あえていうなら興味のあるテックについてしゃべるといい。
■主導権はあなたにある
契約を切るのは企業に権利があるように思えるが、自分自身にもある。企業が契約を切るのは仕事の早さに満足できてないケース以外にはない。その他の勤務態度などは、ようするに仕事に不満があった上での理由探しにすぎない。
一方であなた自身が契約を解除するのは自由でもある。技術的につまらなくなったり、同じことの繰り返しになったり、たまたま上司の性格が気に入らないという理由でも辞めることができる。フリーランスの武器だ。主導権は常に自分にある。そしてそれを絶対に手放してはいけない。相手に契約を守らせる、環境は自分で作るということを肝に命じねばならない。
■業界を正しく辞める
辞めたくなったら正しい道で上に行こう。技術を極めて勉強をし続け、Githubのアカウントにコードをおいたり、オープンソフトウェアの開発に貢献したりして、天上人の道を行くべき。大学に行くのもいいでしょう。最下層にいる状態で、使い捨てプログラマをやめたがるは地獄への道につながっている。いっそのこと業界を去るのもいいでしょう。
■余談
最下層世界では、常に中間管理職の技術者は悲惨だ。クライアントに逆らうことはできず、営業は納期を適当に設定し、不具合の責任もとらされる。給料はやや高いか、それさえもないかもしれず、オーバーワークも珍しくない。内情を知るとメリットは正社員という世間体だけのように見える。もちろん50代になってもフリーランスをやってられんだろうということを見越して会社に所属しておく、という考えもある。それは愚策に見える。オーバーワークをするなら自分のためにしたほうが良い。会社に入るならメーカーのIT部署とかのほうがいいかもしれない。
期間限定契約の使い捨てプログラマは悲惨に思えるが、背負っているものは軽く、金は自分で総取りできる。年を取ったらどうするんだ、という最大の問題はある。努力して天上人になるか、業種を変えるか、貯蓄に励んで資産形成するかというところだが、鬱になったり体を壊すよりはいいかもだ。どちらにせよ素晴らしい日々とは縁遠い。
使い捨てとして生きるほうがよい、と理解した日を思い出した。
だから抜け出そうとしていたことも思い出した。